混沌とした戦乱の世界が舞台となることも多い「シミュレーションRPG」では、敵キャラたちの非人道的な悪行もドラマを盛り上げる要素の一つだ。ゲームの難易度だけでなく、精神的にもプレイヤーたちを追い詰めた、悪役たちの所業の数々を見ていこう。
■すべてを奪われてしまった姿にプレイヤー騒然…『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』
1996年より任天堂から発売されたスーパーファミコン(SFC)ソフト『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』は、いまだ根強い人気を誇るシミュレーションRPG『ファイアーエムブレム』シリーズの4作目にあたる作品だ。
シリーズ恒例となった“3すくみ”システムの導入などもあり意欲作としても知られる本作では、親と子の2世代にわたって繰り広げられる壮大なドラマが描かれていく。
全編を通して“戦争”の悲惨さもテーマとなっている本作だが、物語前半にあたる“シグルド編”の終了時に発生する“バーハラの悲劇”なるイベントは、当時のプレイヤーたちに絶大なトラウマを残すこととなった。
主人公・シグルドらは謀反の嫌疑をかけられ、たび重なる戦いで仲間を失いながらも激戦を制し、“バーハラ王都”への凱旋を果たす。
王都ではヴェルトマー公爵家の現当主・アルヴィスが、彼の率いる大軍とともにシグルドらを出迎えた。快く迎え入れられたと思っていたシグルドだが、アルヴィスは突如、彼らを“反逆者”と称し、掌を返す。すべてはアルヴィスの謀略であり、彼ははなからシグルドたちを包囲し、その場で処刑するつもりだったのだ。
しかもそれだけでなく、アルヴィスはマンフロイによって記憶を消されたシグルドの妻・ディアドラを自身の妻として凱旋式の場に呼び寄せていた。
それまで“緑色”だった同盟軍が、敵軍を示す“赤色”へと変貌し、自軍に向かって容赦ない攻撃が叩き込まれる姿は壮絶。このあまりにも凄惨な出来事を最後に、本作の前編は終了。
友に裏切られ、妻を奪われ、仲間を殺され……シグルドはもちろん、画面を見つめるプレイヤーたちをも絶望のどん底に叩き落とした、あまりにも苛烈な悪行である。
■弱者が虐げられる戦争の現実…『タクティクスオウガ』
1995年にクエストより発売されたSFCソフト『タクティクスオウガ』は、“クォータービュー方式”を取り入れたシミュレーションゲームの元祖ともいえる作品だ。本作は『オウガバトル』シリーズの2作目で、舞台となるヴァレリア諸島で繰り広げられる“民族紛争”がテーマとなっている。
選択の内容によって登場キャラクターの生存状況が大きく変化するのだが、なかでもフォリナー四姉妹の一人・セリエはとあるルートにて、あまりにも悲惨な最期を遂げることで有名だ。
ゲリラを率いて戦い続けていたセリエだったが、奮闘虚しく暗黒騎士団・“ロスローリアン”によってゲリラを壊滅されてしまう。暗黒騎士・オズに屈することなく、自ら「殺せ!」と啖呵を切るセリエだったが、彼女の決して折れない姿にオズは激昂。
彼は周囲を取り囲む仲間たちに向かって、「この女はおまえたちにくれてやる。好きにしろッ!」と命令を下す。この一言を受け、下っ端たちはオズの言葉に歓喜しながら、憔悴しきったセリエを取り囲み近付いていく。
直接的な描写こそ描かれてはいないが、暗闇のなかで響くセリエの悲鳴が、彼女が男たちにより苦しめられ、“殺害”されたことを示唆しているこのシーン。
戦争によってもたらされる陰鬱なイベントも多い本作だが、人間の持つ生々しい欲望が描かれた、なんとも絶望的なイベントだ。これもまた、善や悪だけでは計ることができない、“戦争”のリアルな姿なのかもしれない……。