■死によって実る哀しき愛「フォウ・ムラサメ」
最後に同じく『機動戦士Zガンダム』より、強化人間として壮絶な人生を歩んだフォウ・ムラサメを紹介しよう。
一年戦争にて戦災孤児となってしまったフォウは、ニュータイプ研究所である「ムラサメ研究所」に送られる。研究所では自身の名前を含めたいっさいの記憶を抹消され、“フォウ・ムラサメ”という名前を与えられることとなる。
戦場で成果をあげることが記憶返還の条件であったことから、ティターンズの兵士としてサイコ・ガンダムで出撃し、カミーユと運命的な出会いを果たす。最初は記憶のためにカミーユを本気で打ち倒そうとしていたが、自身を想うカミーユの優しい言葉に心が動かされ、やがて2人は恋仲となる。しかし敵同士である2人は戦火によって引き裂かれ、カミーユのことを忘れてしまうほどの調整を加えられたのち、再び戦場で相まみえることとなるのだ。
カミーユの決死の説得がフォウの潜在意識に届き、正気に戻った直後、ジェリドのバイアランがカミーユを襲う。ジェリドの挙動をいち早く察知したフォウは、迷いなくカミーユをかばい、コックピットを貫かれてしまうのだった。
外に投げ出されたフォウはカミーユの腕の中でわずかに目を覚まし、優しい微笑みを残しながら眠るようにその生涯に幕を下ろした。目が覚める直前にフォウは、「カミーユ、悲しまないで……。これで私はいつでもあなたに会えるわ…。本当に、あなたの中に入ることができるんだから……。」と、幸せな気持ちで満ち足りていたようだった。
戦場という命のやり取りが行われる地獄で芽生えた愛。ともすればそれは、戦場であるがゆえに芽生えた愛だったのかもしれないと思うと、なんとも皮肉な話である。
だが最後に見せたその美しい命の輝きは、我々視聴者の胸に今もなお深く刻み込まれている。そんな美しくもはかない“哀しき戦士”たちに、今一度哀悼の意を表したい。