漫画界の巨匠・水木しげるさんの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』。2023年11月に公開された最新版映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、興行収入26.5億円、動員数185万人と、大ヒットを記録している。(2024年2月13日現在)
非常に歴史の長い『鬼太郎』シリーズだが、作品によって主人公・鬼太郎の描かれ方も実にさまざまだ。思わず読者も驚いてしまう、意外な“鬼太郎像”について見ていこう。
■人間や妖怪の“闇”を詰め込んだ原点作品…『墓場鬼太郎』
鬼太郎といえば、数々の妖怪と戦うなかで不意に見せる少年としての可愛らしさも大きな魅力だが、一部ではその“可愛らしさ”を排除した、普段とは一風変わったテイストの姿を見ることができる。
1960年からさまざまな出版社にて“貸本漫画”として公開された『墓場鬼太郎』こそ、いつもよりダークな鬼太郎を拝むことができる作品だ。
本作はアニメ版の1期や2期よりも前の時代を舞台としており、鬼太郎の誕生から物語が始まる。鬼太郎は左目を隠すように伸びた“長い前髪”もチャームポイントだが、本作ではまだ髪の毛自体が伸び切っておらず、かなり短髪な印象を受ける。目付きも鋭く、時折浮かべるあくどい笑みなど、可愛らしいというより、どちらかといえば“小憎たらしい子ども”といった感じだ。
また、性格もアニメ版のような正義感溢れる好青年ではなく、どこか身勝手な立ち振る舞いも多く、気に入らないことがあるたび「フンッ!」と鼻息を荒くすることも……。
さらにはカツアゲや恐喝といった行為に手を染めることもあり、今までのヒーロー然とした“鬼太郎像”から一変、妖怪の“悪”としての側面も色濃く表現されている。
私利私欲に突き動かされ、悪事をしては失敗を繰り返すその姿は、どちらかといえばシリーズを通して描かれるねずみ男に近い印象を受けるかもしれない。
そんな鬼太郎が活躍するエピソードもどこか“子ども向け”とは言い難いものが多く、いわゆるブラックユーモアや痛烈な社会風刺を盛り込んだものばかり。人間が妖怪の犠牲になる場面も多いのだが、本作の鬼太郎はそれを無視する場面もあり、これまでの“鬼太郎像”を知っているファンからすれば、驚かされてしまうかもしれない。
幼年誌やアニメの『鬼太郎』シリーズから一変、妖怪のおどろおどろしさや、人間が持つ心の闇といった黒い一面をこれでもかと堪能できる、まさに“原点”ともいえる一作である。
■巨匠が仕掛けた“下ネタ”混じりの意欲作…『続ゲゲゲの鬼太郎』
鬼太郎と言えばやはり“少年”の姿を想像する人も多いかもしれないが、実は成長した“その後の姿”がとある作品で描かれていることをご存じだろうか。その作品こそ、1977年から『週刊実話』(日本ジャーナル出版)にて連載された『続ゲゲゲの鬼太郎』だ。
本作は、高校生に成長し人間界に溶け込んで生活する鬼太郎がさまざまな怪異に巻き込まれ奔走していく、1話完結型のギャグ漫画となっている。
鬼太郎は「田中ゲタ吉」の名で“墓の下高校”に通っており、背もかなり伸びている。愛用の“ちゃんちゃんこ”を編み直したセーターとズボンというラフなスタイルが特徴で、アルバイトで収入を得ながら暮らしたりと人間の青年同様の暮らしを送っていた。
これだけだと鬼太郎の“その後”を描いたほのぼのとした作品にも思えるが、本作最大の特徴はそのギャグの内容。なんと本作、これでもかと“下ネタ”が飛び交う非常に強烈なテイストの一作となっているのだ。
高校生になった鬼太郎は年頃の青年らしく“異性”に対して強い好奇心を抱き、ねずみ男や目玉のおやじといったお馴染みの面々とともに、“大人の世界”へと足を踏み入れていく。
鬼太郎が美女に欲情するといったネタはもちろん、所属する部活は「女体研究部」だったり、さらに暴力団に身売りされたりと、なにかと“子ども向け”とは言い難い衝撃的なシーンのオンパレードなのだ。
ちなみに、一応だが自身が“正義の味方”という自覚はあるようで、いざとなれば妖怪退治に乗り出したりもしている。
お年頃とはいえ、これまでの“鬼太郎像”とはあまりにもかけ離れた、なんとも強烈な作風の転換である。