スポーツ漫画では主人公の前に立ちはだかり、互いを高め合う良き“ライバル”が登場するものだが、なかには過酷な鍛錬や激闘がきっかけとなり、作中で死亡してしまうことも……。作中で非業の死を遂げてしまった、哀しき“ライバル”たちについて見ていこう。
■主人公を追い詰め続けた“執念”の拳…『あしたのジョー』力石徹
さまざまなスポーツ漫画があるなか、“ライバル”との激闘に焦点を当てた作品として有名なのが、原作:高森朝雄(梶原一騎)さん、作画:ちばてつやさんが手掛けた『あしたのジョー』だろう。
1967年より『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されたボクシング漫画で、主人公・矢吹丈が天性の才能を見抜かれたことからボクサーとして成長し、強敵たちと激闘を繰り広げていく。
そんな丈にとって最大の“ライバル”ともいえる存在が、作中通して丈の対比として描かれていく力石徹だ。もともとウェルター級のボクシング選手として活躍していた力石だが、観客を殴ってしまったことで少年院に収容され、そこで丈と運命の出会いを果たす。
激情家の丈に対し、冷静かつ不愛想な立ち振る舞いが目立っていた力石だが、少年院で丈に敗れて以降、彼との再戦を果たすため、同じ“バンタム級”を目指し過酷な減量へと挑む。
10kg以上も体重を落とした力石は、その影響から“幽鬼”のようなおどろおどろしい姿に変貌。周囲の人間たちの制止を振り切り、ついに丈へのリベンジマッチを果たす。
壮絶な殴り合いの末、力石は丈の進化した“ダブルクロス”を得意技のアッパーで破る“トリプルクロス”で切り返し、見事に勝利をもぎ取った。しかし、試合中に丈から受けた“テンプル(こめかみ)”への一打と、その際に転倒しロープで後頭部を打ったことが決め手となり、彼の肉体は限界を迎えてしまう。
結果、試合後に丈と握手をかわそうと手を差し出した力石は、そのままリング上に倒れ、帰らぬ人となってしまった。
執念のみを頼りに拳を振るい続けた力石だったが、彼の死はのちの丈にも強く影響し、対戦相手の頭部を殴れなくなってしまうほどのトラウマを植え付けることとなる。
丈に立ちはだかる強敵としてはもちろん、『あしたのジョー』という作品自体をも象徴する、凄まじい生きざまを見せつけた“ライバル”キャラクターだ。
■散り際に残した主人公への激励…『バリバリ伝説』聖秀吉
1983年より『週刊少年マガジン』(講談社)で連載された、しげの秀一さんの『バリバリ伝説』は、“オートバイ競技”を題材にした作品だ。
主人公の高校生・巨摩郡がアマチュアライダーを経て世界へと挑戦していく姿を描いており、バイク好きの若者たちから絶大な人気を獲得した。
そんな本作において郡のライバルとして活躍したのが、大阪からやってきた転校生・聖秀吉だ。秀吉は関西育ちの少年で、愛車の“GSX750Sカタナ”を乗りこなし、郡とも峠で互角以上のレースを繰り広げた。
秀吉に敗北したことをきっかけに、郡も闘争心剥き出しで彼と競い合っていくようになるが、ときにはチームメイトとして協力することもあり、犬猿の仲でありながらも互いを高め合う良き“ライバル”として成長を続けていく。
そんな秀吉だが、“鈴鹿4耐”を乗り越えたあと、思わぬ悲劇に見舞われる。大会を乗り越え、あらためて郡とともに峠を攻める秀吉だったが、帰り道のカーブで偶然にも転倒したバイクに遭遇し、避けようとしたことで自身も激しく転倒。
救急車で搬送される際にはすでに脈が止まっていた秀吉だが、最期の力を振り絞り、郡に「ノッポ、はやくなろうな」とメッセージを伝え、息絶えてしまった。
夢半ばで倒れた彼が残した言葉は、“ライバル”としてともに奮闘した郡への激励の一言だったのである。この彼の死をきっかけに物語は大きく動いていき、郡は世界を相手に戦いを挑むようになっていく。
命を散らし、それでもなお一緒に歩んだ主人公の背中を強く押した、哀しき“ライバル”といえるだろう。