■ほかの解決策はなかったものか…第83話「憎悪の連鎖 妖怪ほうこう」

 第83話「憎悪の連鎖 妖怪ほうこう」は、SNSがもたらした悲劇のエピソードだ。

 街では不気味な仮面をつけた妖怪が人間をさらう事件が頻発していた。鬼太郎が調査を開始すると一人のおじさんと出会い、それが通称“TAKUMIの木”と呼ばれるクスノキにかかわりを持っていることが判明する。

 そのおじさんは、丘に立つ樹齢2000年のクスノキを代々守ってきた者らしい。しかし、ある日人気ミュージシャンのTAKUMIが、そのクスノキの写真を自身のSNSにアップしたことで環境は一変。通称“TAKUMIの木”と呼ばれるようになりファンが殺到、近隣はゴミや車で迷惑するようになり、それを見かねたおじさんはクスノキを切ってしまう。そして、そのクスノキを寝床にしていた妖怪“ほうこう”が怒り、今回の事件へとつながっていた。

 ここまで聞くと、始まりを作ったTAKUMIが悪者に感じるかもしれないが、実はそんなに悪者でもない。TAKUMIは人生でつらかったときにこのクスノキに支えられた過去があり、SNSへの投稿もその感謝の気持ちを伝えようとした純粋な行為だった。

 悪意がなかったとはいえ、このような事態を招いたことにTAKUMIも心からの謝罪をする。しかし、それでも“ほうこう”の怒りは収まらず、麓まで怒りの炎が降り注ぎ住宅街では大火事が発生。最後は鬼太郎が“ほうこう”を退治消滅させることで一応の解決となったが、火事は広がり続け、恩人であり精神的な支えでもあったクスノキを失ったTAKUMIは「僕はこれからどうやって生きていけばいいんだ」と絶望していた。

 このエピソードは大惨事で終わるが、そのはじまりが純粋な感謝の気持ちだっただけに余計救いがない。そして、やむを得なかったとはいえ“ほうこう”を消滅させたことに憔悴しきっていた鬼太郎の姿も印象的だった。

 

 今回は、『ゲゲゲの鬼太郎』第6シリーズから“救いがなさすぎる”エピソードを紹介してきた。第6シリーズは原点回帰というべきシリーズで、水木しげるさん作品が持つ本来の“怖い”鬼太郎が存分に感じられた。

 とくに今回紹介したエピソードでは、いずれの登場人物たちにもハッピーエンドを迎えることができた者がおらず、本当に“救いがなさすぎる”エピソードだったように思う。

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