映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が大ヒットを記録している。昨年11月の公開から累計164万人を動員し、興行収入も23億円を突破した。(1月21日時点)
鬼太郎の誕生の秘密について描かれた本作だが、「過去イチ怖い」と言われているストーリー性も大ヒットの理由の1つだろう。水木しげる作品の最大の魅力といっても過言ではない、“怖さ”があるのだ。
そこで今回は、怖いことで評価の高いアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6シリーズ全97話の中から、とくに“救いがなさすぎる”エピソードを紹介する。
■娘の気持ちも分からなくはないが…「永遠の命おどろおどろ」
第43話「永遠の命おどろおどろ」は、主人公・鬼太郎が恨まれて終わる後味の悪いエピソードだ。
街では吸血事件が頻発していた。そんな中、鬼太郎のもとに一通の手紙が届く。送り主は小野崎という男性で、“自分を殺してほしい”という驚愕の内容だった。
小野崎は、かつて“不死の細胞”を作ったことで一躍時の人となった研究者だ。しかしのちに続く者たちがその細胞を再現することができず、“不死の細胞”は偽物だというレッテルを貼られていた。小野崎は自分の研究の正当性を訴えるべく、自身の体にその“不死の細胞”を注射してしまう。
幸か不幸か“不死の細胞”はまぎれもなく本物で、小野崎は不死の体を手にするのだが、その代償として妖怪“おどろおどろ”となり、血を求め人間を襲うようになってしまう。苦悩するも不死である自分は自ら人生を終わらせることもできず、だからこそ妖怪をも殺せる鬼太郎に自分の殺害を依頼してきたのだった。
しかし妖怪になったとはいえ、本来は人間である小野崎を手にかけることを鬼太郎は躊躇する。そうしているうちに、小野崎は家を飛び出しおどろおどろになって人を襲いはじめ、挙句の果てに娘の美琴も手にかけようとしてしまう。それを見た鬼太郎は覚悟を決め、指鉄砲でおどろおどろを撃ち抜き、小野崎は泣いて悲しむ娘の前で消滅した。
事件解決後、小野崎の墓で再会した美琴は鬼太郎といっさい目も合わせず、さらに「私はあなたを許さない絶対に」と恨みの言葉を残す。
美琴の気持ちも分からなくもないが、鬼太郎を恨むのは筋違いではないだろうか……。鬼太郎がただただ“汚れ役”になるという、まさに救いのない回だった。
■欲望を叶えるも空しい結果に…「欲望のヤマタノオロチ」
第73話「欲望のヤマタノオロチ」は、人の欲望が最悪の結果をもたらすというエピソードだ。
女性には相手にされず、父親には金の無心をされ、自分は不幸だと嘆く斉藤という一人の男性。ある日「どんな願いも8つ叶えるヤマタノオロチ」というネットの噂を目にし、さっそく現場のオグロ山へ向かう。
そこには体が木の不気味な妖怪“呼子”がおり、なぜかダイヤモンドを渡される斉藤。そのダイヤの中にはなんとヤマタノオロチがおり、噂通り願い事を8つ叶えてくれるらしい。斉藤は言われるがままに願いを言い、金や女性を手に入れ、ヤマタノオロチの力を満喫する。
しかし「彼女と別れさせてくれ」という願いに、その女性を殺害して叶えたヤマタノオロチに対して恐怖しはじめる斉藤。いずれ自身にも不幸がもたらされると確信しダイヤを手放そうとするのだが、なぜか必ず手元に戻ってきてしまう。
斉藤は6つ目の願いを使って鬼太郎に助けを求めるも、自分の保身のために次の7つ目の願いでその鬼太郎さえも殺そうとする(なんとも救いがない斉藤だ)。いよいよ窮地に立たされた斉藤は「願いなんて捨てたい!」と最後である8つ目の願い事を言い、体が木で人の言葉だけを繰り返す妖怪“呼子”、すなわち願い事を捨てた姿へと変貌。
実は、物語冒頭で斉藤にダイヤを渡した不気味な呼子は、昭和の時代に斉藤と同じようにヤマタノオロチに願い事を叶えてもらい、その代償として体が木の“呼子”に変えられた者だった。人間に戻るには自分の代わりに呼子になる者が必要で、まんまと今回その交代役となったのが今回の斉藤だったのだ。
欲望の赴くままに行動した結果、妖怪となった斉藤……いつ現れるかも分からない次の呼子を山の中で一人寂しく待ち続けることになるのだろう。