■凄まじい精度で放たれる“シュート”『あひるの空』車谷空
2004年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されている、日向武史氏の『あひるの空』は、“バスケットボール”を題材にしたスポーツ漫画だ。
主人公の高校生・車谷空は、かつて母に誓った夢を実現するため、不良の巣窟となってしまった「九頭龍高校」のバスケ部で奮闘していく。
父はバスケットボール部の監督、母は元全日本バスケットボール選手と、いわゆるサラブレッドの家系に生まれた空だが、物語開始直後の身長は149.22cmと、けっして恵まれた体格ではなかった。
そんな空だが、代わりに“シュート”においては常人離れした精度を誇っており、とくに「ワンハンドによる3ポイントシュート」を得意としている。
そんな彼のバスケセンスが発揮されるのが、第1話開始直後。河川敷で不良と喧嘩し惨敗した空は、花園千秋と偶然出会うこととなる。ドタバタしたやり取りの末、空は気絶してしまった千秋を置いてその場をあとにするのだが、目を覚ました千秋は信じがたい事実を知ることとなる。
河川敷の高架下では子どもたちが遥か頭上に作られたツバメの巣を見て、「親鳥が卵を押し出し落としてしまう」と騒いでいた。その高さから卵を戻すことは無理と判断する千秋だったが、子どもたちから先程まで話していた空が、卵を巣へと戻したことを聞くのだ。
直接的な描写こそないが、空は鳥の卵をまさに“バスケのシュート”のように小さな巣へと投げ入れたのだろう。ボールよりも軽く、遥かに小さな卵を割らないように“ツバメの巣”へと的確に戻すその神業は、空が持つ高い“シュート”のセンスを物語っている。
両親から受け継いだ類まれなる才能の片鱗を、実にさりげなく発揮したエピソードといえるだろう。
今回紹介した主人公たちは、一見、どこか頼りない印象を抱かせるキャラクターばかりだが、一方で彼らが身につけた高い“スポーツセンス”にはただただ驚かされてしまう。第1話からさりげなく発揮される彼らの才能は読者を冒頭から強烈に魅了し、続く物語に引きこんでいくのだろう。