■伝説の魔獣さえ魅了!? 『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の生姜焼き
最後に紹介するのは、江口連氏のライトノベルを原作とする『とんでもスキルで異世界放浪メシ』。料理が趣味のサラリーマン・ムコーダが突如異世界に召喚され、料理スキルを活かして異世界人や魔獣の胃袋をつかんでいく姿が描かれる。
物語序盤、ムコーダが仲間に魔物の肉の生姜焼きを振る舞っていたところ、伝説の魔獣フェンリルがその匂いに釣られてグルルル唸りながら現われる姿は迫力満点。魔物を倒すことを生業としてる冒険者グループだって、顔を真っ青にして固まってしまう。
しかし緊張感たっぷりのシーンとして書かれているものの、ここでのフェンリルの台詞は「人間よ それを我にも 食わせろ」……要するに「美味そうな生姜焼きを自分にもちょうだい」という、とっても食いしん坊なセリフでしかない。日本産の生姜焼きのタレでジュワアアアっと焼かれた魔物の肉は、それだけ良い匂いをまき散らしていたのだろう。大皿に大盛りにされた生姜焼きをバクリと一口で平らげるシーンは、見ていて気持ちがいい。
その後、満足するまで生姜焼きを食べた後にフェンリルが口にしたのは、「お主と契約してやろう」という言葉。なんと生姜焼きの美味しさに釣られ、従魔の契約を持ちかけてきたのだ。もちろん主はムコーダである。それでいいのか伝説の魔獣……!?
ムコーダ自身は食べ物につられて従魔になるなんて「アホとしか思えない」ようだが、それだけ彼の作る料理が美味しかったということ。思わず今まで食べた中で一番美味しかった生姜焼きの味を思い出しつつ、ご飯を炊く準備をしてしまう筆者だった。
異世界の飯テロシーンは、メニューはありふれているが驚きが満載というケースが多い。大げさな表現に「そこまでかな」と笑ってしまったり、無性に同じものが食べたくなって冷蔵庫をのぞいたり近所の店を検索したりしてしまうのも、このジャンルの醍醐味ではないだろうか。