■ハラハラドキドキの連続!鬼×ラブロマンス×サスペンス『蒼の封印』
それまで“豹”や“未知のウイルス”といった難しい題材を扱ってきたが、1991年にはまたしても難しい“鬼×恋愛”をテーマにした作品『蒼の封印』を手掛ける。こういった特異な素材にサスペンス要素・恋愛要素を加えて、読者の気持ちをいい意味で乱高下させるのが、篠原作品ならではの魅力だろう。
主人公の桐生蒼子は、クローン・生まれ変わり・人食い鬼「東家の蒼龍」の統治者と全く持って人間らしさがない設定。しかし、ちょっと抜けているところもあり、誰より人間らしい価値観を持っている。人を食べなければ生きられない事実と鬼を滅ぼして人間になりたいという葛藤も繊細に描かれており、切なさを覚えたものだ。
彼女を狙う鬼狩り「西家の白虎」西園寺彬との恋愛も、胸キュンとハラハラの連続で読者を惹き付けた。狩る者と狩られる者ゆえ本来結ばれてはいけない二人は、いわば「ロミオとジュリエット」のような構図。そんな二人が深く愛し合い、幸せな結末を模索する姿は胸が締め付けられた。
「鬼」ならではの格好良さもあったのだが、実は篠原さん自身は主人公を河童にしたかったと『Sho-Comi』の特集インタビューで明かしている。
■中学生が古代帝国にタイムスリップ!壮大な歴史ロマンス『天は赤い河のほとり』
1995年には『少女コミック』(現:Sho-Comi)にて、ホラーサスペンスから路線を変えた『天は赤い河のほとり』の連載が始まる。
舞台は、紀元前14世紀のヒッタイト帝国。ひょんなことからタイムスリップしてしまった中学生・鈴木夕梨が、壮大な歴史の渦に巻き込まれながら第3皇子のカイル・ムルシリと運命の恋に落ちていく物語である。ユーリが運命を受け入れどんどんたくましくなっていく様は見ごたえがあった。
カイル皇子との恋愛は、ピュア&一途。少女漫画に欠かせない胸キュンポイントをうまく取り込んでいて、読者の少女たちを惹き付けてやまなかった。
基本的なストーリーはオリジナルだが、人物やその身に起こる出来事は史実に基づく部分があり、歴史好きにも読み応え抜群な作品だ。オリエントの覇権争いというと難しく感じるが、分かりやすく描かれているため小中学生でもスッと入り込めた。
篠原さんはかつてヒッタイト帝国の首都だったトルコのハットゥシャを訪れた際に、ここを舞台にした作品のラストシーンが浮かんだそうだ。そこから、ラストシーンに向けたストーリーを描き上げていったというから驚きである。
篠原さんは小説家としての顔も持っており、『還ってきた娘』や『天は赤い河のほとり外伝』といった作品も執筆している。漫画に関しては今でも現役で、2010年からはオスマントルコを舞台にした歴史ロマンス『夢の雫、黄金の鳥籠』を連載中だ。