『闇のパープル・アイ』は40周年! 美しいタッチ、大人な描写…子どもながらに惹かれたミステリー漫画家「篠原千絵」作品を振り返るの画像
コミフラワーコミックス『闇のパープル・アイ』第1巻(小学館)

 昭和・平成初期を代表する少女ホラー・ミステリー漫画家の一人、篠原千絵さん。1981年のデビュー以来次々と話題作を生み出し、1984年から連載され、雛形あきこさんを主演にテレビドラマ化もされた『闇のパープル・アイ』は今年で40周年を迎えた。

 少女読者たちの背筋をゾクゾクさせた篠原さんの作品は、妖怪や怨念的な怖さだけではない。短編でも長編でもサスペンス要素が強く、少女読者たちは気になる続きを読むために怖がりながらページをめくっていた。

 今回は、そんな篠原千絵さんの名作たちを振り返ってみようと思う。

■豹に変身する少女の数奇な運命を描く『闇のパープル・アイ』

 1984年に連載が始まった『闇のパープル・アイ』は、篠原さんが初めて手掛けた長編漫画で、「小学館漫画賞」を受賞するヒット作となった。

 ストーリーは、豹に変身する異質な体のせいで追い詰められ、逃げることのできない壮絶な運命の流れに飲まれていく高校生・尾崎倫子とその娘・麻衣を軸に展開していく物語。篠原さんの描くキャラは妖艶なうえ作中ではお色気描写もあるため、ドキドキしながら見ていたという読者も多いだろう。 

 胸を打ったのは、倫子の恋人・水島慎也の献身的で一途な愛ではないだろうか。彼は、倫子の秘密を知ったときも、豹仲間だった小田切の子どもを出産した後も彼女を愛し抜き、彼らの娘である麻衣を自分の子として育てたのだ。

 一方の小田切も、自分と同じ運命にある倫子に対しての思いを抱えていた。やり方は強引でワンマンではあるが、命をかけて倫子を守る姿にはグッとくる。当時の少女読者の中には、小田切の“セクシーな大人の男っぽさ”に惹かれた人も少なくないはずだ。

 サスペンス映画のように目が離せない複雑で濃厚なストーリーに、登場人物たちの繊細な心理描写など、どこをとっても名作という言葉が相応しい作品であった。

■ウイルスに侵された姉妹の悲劇『海の闇、月の影』

 1987年からは、『週刊少女コミック』(現:Sho-Comi)でホラーサスペンス『海の闇、月の影』の連載が始まった。

 同作は、仲良しの双子・流水と流風が未知のウイルスに侵されるところから始まるコミックス全18巻の物語。ウイルスに支配されて精神が壊れ、恋のライバルでもあった流風に対して憎悪と殺意が止まらなくなってしまった流水は”悪”そのものとなった。

 流風を殺して克之を手に入れるために、家族や友人、学校の生徒、医者までも次々にウイルスに感染させ惨忍な手口で命を奪っていく流水は、表情から行動まで全てが恐ろしかった。

 だが、流水を突き動かしているのは克之への愛。それが嫌というほど読者に伝わってくるため、読み進めるごとに彼女に対して怖いよりも哀しい、やるせないといった気持ちが強くなっていくのだ。

 同作は、涙なくしては読めない結末を迎える。皆が幸せになる道も望んだが、このラストだからこそ物語が美しく完結したと思う。読者にそういった大きな余韻を残していく点も、篠原ワールドの素晴らしさだ。

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