史実をもとに、春秋戦国時代の秦国による中華統一の軌跡を描いた灼熱の戦国物語『キングダム』。好評である実写映画の第4弾が2024年夏に公開されることが発表となったほか、本日1月13日(本来の放送開始日は6日だったが延期)からはアニメの第5シリーズも放送開始予定となっており、各方面で常に盛り上がりを見せている作品だ。
戦いの明暗を分ける将軍たちの一騎打ちが見どころの一つではあるが、そこに至るまでに繰り出される戦術によって、大局が動き出すさまはまさに圧巻の一言である。
今回は、漫画『キングダム』で描かれた驚くべき戦術に焦点を当てて、いくつか紹介していきたいと思う。
■総力戦で切り開く“至強”への道「斜陣がけ」
合従軍との戦いにて、中華の大国・楚の軍を率いる汗明(かんめい)と相対する、秦の猛将・蒙武(もうぶ)。汗明軍6万に対し蒙武軍は4万と数的不利を抱えた戦いとなるのである。
蒙武は先制で左軍3千のみを汗明軍に放つが、汗明によって送られた5千の援軍で左軍は疲弊していく。そこで沈黙を破った蒙武が「左から順次 突撃だ!!」と命令を下し、ここで開戦前に秦軍総司令・昌平君から託された戦術「斜陣がけ」が発動されるのである。
「斜陣がけ」は左の軍から順番に、かつ間髪入れずに敵の横陣に衝突するため、密集する軍の中で斜めに力が伝わっていき、兵士のバランスをまるでドミノ倒しのように崩していく特性があるのだ。数的不利を覆すのにはうってつけであり、さらに普段戦術を駆使しない蒙武による「斜陣がけ」は、楚軍に大きな衝撃を与えることとなった。
そこから時を置いて、蒙武は「斜陣がけ」の第2波である1万5千を放つ。今回は左右両端の軍に兵力を集中させるが、これは楚軍に両端崩しが狙いであると思い込ませるためであった。楚軍はまんまと両端の兵力を厚くし中央軍を手薄にしてしまうのだ。蒙武軍5千を残し発動した「斜陣がけ」は、最初から蒙武自身が軍の中央に鎮座する汗明へとたどり着くための道を作る戦術であったのである。
汗明の中央軍は1万と依然数的不利は変わらないが、蒙武はその武力をもって中央軍を突破し、見事、“至強”汗明と対峙することになるのである。
昌平君が蒙武の武力を信じて託した「斜陣がけ」。この一連の戦いは何度読み返しても胸が熱くなってしまう。
■大軍を粉々にする混沌の渦「流動」
合従軍戦は終盤、李牧率いる別動隊が秦の王都・咸陽の喉元まで迫っていたところをいち早く察知したのは、本能型の名将・麃公(ひょうこう)だった。飛信隊を加えた麃公軍から猛烈な追撃を受けた李牧。陣形の組みにくい狭路での戦闘で短期決戦としたい李牧は「“流動”を使う」とすぐさま麃公軍への対処に移るのである。
「流動」は李牧軍本陣が移動することによって、戦場全体に巨大な渦のような流れを作り出すというもの。渦の中心、つまり先頭には李牧軍の本陣があるため、流れに乗ればいずれ李牧にたどり着けると思われたが、流れの各地に盾を構えた不動の兵士たちがいる事によって、追撃する軍が次々と分断されてしまうのである。そうした現象が各地で繰り返される事で、秦軍は混沌の渦の深みにはまっていき、やがて統率が取れないほどバラバラになってしまった。
戦場全体に影響する複雑な流れを、高所からではなく兵士たちと同じ地上目線で操作するという、李牧にしか成し得ない超高等戦術「流動」。それは秦軍にとってもかけがえのない将軍を失うに至る、恐ろしい戦術なのだった。