■詩情あふれる演出で描かれる心温まる出会いと切ない別れ「夜行列車」

 最後に紹介するのは、ファンの中でも人気の高い、屈指の名エピソードとして知られる第99話「夜行列車」だ。サラリーマン・小宮友雄は、駅で喪黒福造にココロのスキマを指摘される。夜行列車で旅に出れば心を洗われる経験ができると言われ「ドーン!」される。そのまま夜行列車に乗り、田舎町に到着した小宮は、たまたま見かけて立ち寄った居酒屋で意気投合した美人女将に誘われ、そのまま泊まることに。

 翌朝、美人女将の心の暖かさに触れ、感謝を述べる小宮。すると、いつまでもいて欲しいと懇願され、2人は恋に落ちる。それからは田舎町で仲良く日々を過ごしていた。

 ところが、ある日再び喪黒が現れ、自宅に連絡するようにと忠告する。そこで小宮が自宅に電話をかけると、妻が倒れ、その病状が深刻だということを知る。小宮は美人女将に感謝の置き手紙を残して帰ろうとするが、折悪しく吹雪のため列車は運休中。そこにまたまた現れた喪黒!

「私にお任せください」と言う喪黒、そして再びの「ドーン!」。すると、運休していたはずの列車が到着し、すかさず乗り込む小宮。置き手紙を読んで駆け付けた美人女将が涙ながらに見送り、小宮もまた涙を流す。

 この涙を流して別れる一連の流れは、セリフがなくBGMと絵の描写だけで演出されており、何とも言えない“エモさ”がある。TVアニメ版『笑ゥせぇるすまん』の中でも数少ない純粋に感動できるシーンのひとつだ。

 ちなみに、この回のラストで喪黒は「他人様のココロのスキマを埋めるのにも、少々疲れました」と語っている。

 

『笑ゥせぇるすまん』には、今回紹介した回以外にも、客観的には「ウゲッ」と思ってしまうが、これはこれで本人は幸せなのかもしれない……と感じられるエピソードがいくつか存在する。

 そうした回で原作者の藤子不二雄Aさんが伝えたかったメッセージは、「人間の幸せというものは必ずしもお金や名誉だけではなく、その形は人それぞれである」ということなのかもしれない。

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