もはや日常生活で手放せなくなった「スマホ」。いつでもどこでも相手に連絡ができるツールのため、昔に比べるとすれ違いによるトラブルは減ったように思う。しかし昔は待ち合わせの場所を勘違いしたり、時間に遅れたりするトラブルは日常茶飯事だった。
そのようなトラブルは昭和の名作漫画でも多く登場し、ときには人の生死にかかわることも多かった。そこで今回は「もしスマホがあれば避けられたであろう重大事故」を、昭和の名作少女漫画からいくつか紹介したい。
■『ベルサイユのばら』フェルゼンの馬車が遅れるミス…スマホがあればマリー・アントワネットの逃亡は成功していた!?
昭和の名作である池田理代子氏の『ベルサイユのばら』には、主人公・オスカルとアンドレの人気カップルのほかにも、マリー・アントワネットとフェルゼンという情熱的なカップルが登場する。
フランス王妃との“道ならぬ恋”であったとはいえ、フェルゼンは最後までアントワネットを支えた男である。フランス革命時に国王一家が脱出を企てた際にもその計画をサポートし、アントワネットたちを馬車に引き連れ先導した。
しかしフェルゼンが率いる馬車は慣れないパリの道に迷ってしまい、偽装馬車との約束の時間に2時間以上も遅れてしまう。さらに国王命令によってフェルゼンがその場を離れたあと、サン・ムヌーで落ち合うはずだった竜騎兵たちは待ちくたびれて帰ってしまっていた。結局アントワネットたちは革命家たちによって捕まり、その後は処刑へと壮絶な運命を辿っていくのである。
仮にこの時代にスマホがあれば、偽装馬車に遅れると連絡をしてスムーズな引継ぎができただろう。また、サン・ムヌーの竜騎兵たちも現状を知ることができ、持ち場を離れることなくアントワネットのオーストリアへの逃亡を手助けしたはずだ。
今さら歴史を変えることはできないが、もしもスマホという便利な連絡手段があれば、『ベルばら』でのアントワネットとフェルゼンの恋の行方、そして、フランス革命の歴史すら大きく変わった可能性があると思うとなんだか感慨深い。
■『ガラスの仮面』スマホがあればそもそもマヤの母は死ななかった?
美内すずえ氏による演劇を舞台にした名作『ガラスの仮面』では、主人公の北島マヤの母・春が亡くなってしまうシーンがある。しかしスマホがあれば、きっとこの死も防げたはずだ。
マヤが演劇界で頭角を表した当初、春はマヤの活動に猛反対していた。仕方なくマヤは家を飛び出し、恩師である月影千草の劇団に入る。その後はマヤを応援する気持ちになる春だったが、そのころには結核に侵され、栄養失調が原因で目も見えなくなっていた。
しかもマヤをサポートしていた速水真澄の策略により、春は山奥の病院に監禁されてしまう。一目でいいから娘に会いたかった春は病院を抜け出し、不遇にも交通事故に遭い、そして吐血をしながらもマヤ主演の映画が上映されている映画館にたどりつく。そして、愛しき娘の声を聞きながら、映画館の座席で息を引き取るのであった。
病院からのおもな連絡手段が公衆電話だった時代、ましてや監視下のなか、目の見えない春が誰かに電話をするのは難しかっただろう。しかし春自身がスマホを持っていれば、たとえ目が見えなくてもマヤと直接連絡を取ることは可能だっただろうし、無理をして病院を抜け出すこともなかったと思う。
仮に抜け出したあとでも、今の時代であれば病院からマヤのスマホに連絡が入り、SNSなどで拡散して春の行方を掴めたのではないか……。結局、春とマヤは会えずに死別してしまうため、スマホさえあればその悲劇を防げたかと思うと悔やまれる。