美内すずえ氏による演劇を舞台にした漫画『ガラスの仮面』は、令和になった今でもファンを魅了し続ける名作だ。もうすぐで連載４９年目を迎える作品でありながら、その続きが気になるというファンの声は年々高まっている。
『ガラスの仮面』は舞台「紅天女」の行方が気になるほか、主人公の北島マヤと速水真澄の恋の行方からも目が離せない。しかし本作の魅力を支えるキャストとして欠かせないのが、やはりマヤを一流の女優に育て上げた月影千草だろう。
かなりスパルタな千草の指導は、漫画の世界だからこそ楽しめるものだ。今日はそんな厳しすぎて“もはやギャグ”のように見える、月影千草の演技指導を振り返りたい。
■学校より稽古！ ４０度の熱なのにバケツの水を浴びせる…
千草のマヤへの厳しい指導が始まったのは、『ガラスの仮面』コミックス第２巻に登場する舞台「若草物語」からだ。
「若草物語」のベスを演じるにあたり、マヤはなかなか気持ちが入り込めず、演出の先生から交代をほのめかされる。抵抗するマヤに対し、千草は「一週間あなたにベスとしていきてもらいます」「むろん学校へもいってはなりません」と指示を出す。役のためになら学校にも行かせないとは、現実社会ではかなり問題になりそうだが……。
その後、見事ベス役を勝ち取ったマヤだが、舞台本番では病気のベスになりきろうとして一晩中雨に打たれて風邪を引き、高熱のあるまま舞台に立つ。その熱の高さはなんと４０度。
舞台の途中、袖に下がったマヤをみんなは心配するが、千草は「立ちなさいマヤ」と言い放ち、演技を続行させる。しかし「熱のせいで頭がぼうっとして…」とセリフが出遅れたマヤに対し、千草は「ではその頭を冷やしてあげましょう」と、バケツの水を全身に浴びせてしまうのだ。
このシーンでは、さすがに演出者全員が“シン…”となり、ドン引きしている。そりゃそうだろう、４０度の熱がある少女にバケツで水を浴びせるなんて、もはや狂気の沙汰である。
しかしその後舞台に立ったマヤは、濡れた体をあえて観客にさらし「湖で水遊びしてたらびしょぬれになっちゃったの」と、アドリブを加え、見事に演じ切るのであった。
演劇に命を懸ける先生に対し、これまた演劇に命を懸ける教え子ともいえる師弟関係。この関係があるからこそ、千草は堂々と厳しい指導ができるのだろう。
■容赦ないビンタ＆極寒の小屋に閉じ込めての指導
コミックス第３巻にて、千草が率いる“劇団つきかげ”は演劇コンクールに出場する。その上映作「たけくらべ」においても、厳しい指導があった。
主演の美登利を演じることになったマヤだが、美登利が怒る演技をどうしてもうまくできない。それを見た千草は「怒りなさい マヤ！」と、容赦なくビンタをし、腹の底から湧きあがる怒りを演じさせるのであった。
口から血を出しながらも、納得のできる演技に満足したマヤ。のちに“こうやればいいんだってやっとわかりました”と、千草にお礼を述べている。
しかし「たけくらべ」は、マヤの永遠のライバル・姫川亜弓も同じコンクールで主演で上演することを知り、マヤはすっかり怖気づいてしまう。それを見た千草は「地区予選がおわるまで 稽古に出なくてよろしい！」と言い放ち、マヤを極寒の物置小屋に閉じ込める。
泣き叫ぶマヤだったが、やることもなく１人小屋で美登利を演じはじめる。すると、ドアの外から千草による指導が……。雪が降るなか、千草はドアを隔ててマヤをつきっきりで指導する。朝から晩までドア越しの通し稽古は続き、それはなんと５日間にも及んだ。
その様子を見ていた劇団つきかげの一員・さやかが「まるで正気の沙汰じゃないわ 先生もあの子も」と言うのだが、まさにその通り。
「たけくらべ」は全体的に千草のスパルタ指導が目立つシーンが多かったが、そのおかげもあり、マヤは亜弓の演技を上回る素晴らしい美登利を演じたのであった。
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