1980年6月に創刊された『ヤングマガジン』。バトルものよりも、グラビアをはじめとするセクシー要素や、ギャンブル、ヤンキーといったコアなジャンルの作品が揃った雑誌で、中学生や高校生になって初めて手に取り、それまで読んでいた少年誌の漫画とはまったく違う世界観に圧倒された経験があるという人も多いだろう。
注目したいのが、掲載作品の中でも異彩を放っていたギャグ漫画。『ヤンマガ』のギャグ漫画は他の雑誌のそれとはひと味違い、アクが強く個性的な作品が多かった。
2013年にはギャグ漫画家だけを集めた『ヤングマガジンGAG増刊 神回』も刊行されており、人気の高さが伺えるジャンルである。今回は、抱腹絶倒なギャグ漫画たちを90年代の作品に絞って振り返ってみようと思う。
■ギャグ漫画の金字塔!?『行け!稲中卓球部』
ヤンマガギャグ漫画の代表格といえば、1993年から連載がスタートした古谷実さんの漫画『行け!稲中卓球部』だ。同作を一言で表現するなら、とにかく下品でくだらない……だからこそ面白いという言葉に尽きる。
最初から最後までボケのオンパレードなうえ、前野、井沢、田中らによるボケは過激な下ネタや外見いじりといった今ならアウトであろうものばかり。ワキガの田辺のことは普通に臭いと言うし、ブスやブ男にストレートにキツイ態度を取る。コンプラに厳しい現代でこの作品が出ていたら、間違いなく批判を浴びてしまうことだろう。
しかし、そんな下品さが気にならなくなるぐらいに全てが面白いのである。カンチョーワールドカップや段ボールで送られる田中、ホームレスを飼う井沢……など、当時の読者であればすぐにコマの端々まで思い出せるエピソードがあるはず。キャラの衣装や表情、ボソッと呟くボケなども読者の笑いを誘ったものである。
■ダークなテーマを笑いで包んだギャグ漫画『僕といっしょ』
『稲中』終了の翌年、古谷さんは1997年から『僕といっしょ』を開始する。
くだらなさにフォーカスした稲中とはやや趣向が変わり、中学生の家出や社会に溶け込めない若者たちの人生に対する迷いや葛藤といったダークなテーマが、笑いの中にいくつも散りばめられた作品だった。
メインキャラクターは、母親の再婚相手と折り合いが合わず所持金わずかの状態で家を飛び出した中学生・先坂すぐ夫と小学生・いく夫の兄弟。東京で個性が限界突破している孤児・伊藤茂(イトキン)、家出した美少年・進藤カズキと出会い、「ヤングホームレス」を結成して暮らし始める、という話だ。
下ネタも相変わらず多いうえに、幸せな人生を歩んでいるキャラクターがほぼいないという重さはたしかにある。しかし、あくまでもギャグが前面に押し出されているのでストーリー全体が変に重苦しくなることはない。
■クスッと笑える四コマ漫画『食べれません』
しもぶくれの大きな顔にお豆のような小さな目という、一度見たらなかなか忘れられないインパクトの強いキャラが織りなす四コマ漫画『食べれません』。風間やんわりさんによるこのギャグ漫画は、1995年から連載が始まった。
毎回、題字とイラストを公募していたのも同作ならではの特徴だ。子どもから大人まで、多くの人の『食べれません』愛を感じることができた。また、作品はシュールな脱力系ギャグが多く、四コマなのでどこから読んでも入り込みやすいというのも、読者に愛されたポイントだろう。
後半は下ネタも増えていたが、気負いせずにクスッと笑える作風がうけ、18年もの間連載が続いた。作者の風間さんは、肝機能障害によって2013年10月に36歳という若さで亡くなっており、この作品が遺作となった。