■王子様じゃなかったの!? 『キャンディ・キャンディ』のアンソニー

『キャンディ・キャンディ』は原作・水木杏子氏、作画・いがらしゆみこ氏による70年代を代表する人気少女漫画だ。孤児の少女・キャンディが、たび重なる試練を乗り越え明るく強く生きていくストーリーである。

 本作では、キャンディに凄惨ないじめをするニールとイライザという兄妹がいた。くじけそうになるキャンディだが、いつも心のなかには幼少期に自分に優しく声をかけてくれた“丘の上の王子様”がいた。

 そんな矢先に出会ったのが、心優しい少年・アンソニーである。イライザからの執拗な嫌がらせによって、2人の仲はギクシャクすることもあった。しかしアンソニーはキャンディの強さや優しさに惹かれ、安心できるアードレー家の養女になるようサポートし、最終的にキャンディと両想いになる。

 しかし養女となったキャンディのお披露目を兼ねたきつね狩りで、アンソニーはキャンディの目の前で落馬事故により命を落としてしまう。「せっかくキャンディが幸せになりそうだったのに!」、「丘の上の王子様はアンソニーだったと思っていたのに!」当時、リアルタイムで読んでいた読者からは、そんな悲鳴がたくさん聞かれた。

 思えばこのアンソニーの死をきっかけに、その後の少女漫画界では優しくて主人公をサポートするイケメンが、不慮の事故などで死ぬ展開が多くなった気がする。

 

 好きなキャラクターが亡くなってしまう展開はショックだが、昭和以前では人の死は身近にあった。『エースをねらえ!』が描かれた時代は医療技術が今よりも進んでおらず、若い人が病気で早く亡くなることも珍しくなかった。『ポーの一族』の舞台は18世紀以降の貴族の話であり、銃で命を落とすシーンも身近にあっただろう。さらに『キャンディ・キャンディ』が描かれている20世紀初頭のアメリカでも、馬による落馬事故というのは多かったようだ。

 推しキャラが亡くなる展開は哀しいものの、今回紹介した作品は身近にあった死を丁寧に救い上げているともいえる。“死”という悲しみが加わるからこそ、昔の漫画は深みがあって面白いのかもしれない。

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