昭和の時代、少女たちの娯楽として大人気だった少女漫画。なかには、令和の今でも人々を魅了し、読まれ続けている名作も多くある。
そんな昭和時代の少女漫画には、今の作品にはあまり登場しない“人の死”が展開されることも多かった。亡くなってしまうのは主人公を支える主要キャストが多く「えっ!この人死んじゃうの!?」と、叫びたくなるときもあった。今回は、そんな重要人物が亡くなってしまう衝撃作品をいくつか紹介したい。
■親愛なる師匠の死…!『エースをねらえ!』宗方仁
『エースをねらえ!』は、山本鈴美香氏による人気テニス漫画だ。テニスコーチである宗方仁が死ぬシーンは、当時、本作のアニメを見ていた筆者も鮮明に覚えている。
主人公の岡ひろみは、西高テニス部の平凡な部員だった。しかしひろみの才能を見出し、鬼コーチとなってつきっきりで指導をしたのが宗方である。最初は反発していたひろみも、宗方を全面的に信頼し、めきめきと実力を付けていく。さらに将来有望な選手として選ばれ、アメリカでのトーナメント試合が決まった。
しかし肝心の渡米時になったところで、宗方は持病が悪化し入院してしまう。宗方は後で行くと言ってひろみを先に渡米させ、自分の病状は伏せたままにしていた。
宗方の病室を訪れた異母妹の蘭子は、宗方に花の水を替えるよう頼まれる。そのときひろみは飛行機のタラップを上っているところなのだが、耳元で「岡!」と呼ぶ声をはっきり聞き、「いま…コーチの声が…」と、不安そうな様子を見せる。
そして、蘭子が病室に戻ったところ、そこには息絶えた宗方の姿が……。手元には「岡 エースをねらえ!」という絶筆が残されていた。
蘭子の手から滑り落ちて割れる花瓶、ひろみが耳元で聞いたコーチの最期の声。このシーンは大切な人が亡くなる瞬間を描いた、少女漫画界における名シーンだと思う。
のちに宗方の死を知り、どん底に突き落とされるひろみ。その後、這い上がっていく彼女の姿は、大切な人を失ったあとの再生の物語にも通じている。
■主人公の生きる糧! まだ幼い少女なのに…『ポーの一族』メリーベル
萩尾望都氏の『ポーの一族』は、永遠の時を生きるバンパネラ(吸血鬼)の一族を描いた物語だ。主人公は美しい14歳の少年エドガー・ポーツネル、その兄によってバンパネラにされたのが美しい少女のメリーベルだ。
病弱なメリーベルはバンパネラであるフランク男爵とシーラの養女となり、美しい少女のままエドガーとともに100年以上の時を過ごす。
そんな美しくてか弱いメリーベルに、兄であるエドガーは強い愛情を注いでいた。物語はエドガーの生き方を中心に描かれているが、メリーベルはエドガーにとって“守るべき存在”であり、自身の“生きる糧”であった。
そんなある日、メリーベルは新たな移住先で貿易商会の息子、アラン・トワイライトに出会い、惹かれ合っていく。しかし男爵夫妻とかかわりのあったジャン・クリフォード医師が、一家が人間ではなくバンパネラであることを見抜く。医師は一家を倒すべく、まずは夫人の胸をフォークで刺し、その後メリーベルを銀の弾丸で撃ち抜いて消滅させてしまうのだ。
100年もの間エドガーとともに穏やかに過ごしてきたメリーベルであったが、たった1発の銃弾でこの世から消滅してしまうのは衝撃だった。しかし、バンパネラとして永遠の命を生き続けるより、アランやエドガーの思い出を抱きながら消えるほうが、実は幸せだったのかもしれない?