■メディアを通じて実母を探した倉田実紗子
90年代に爆発的な人気を誇った小花美穂氏の漫画『こどものおもちゃ』では、主人公・倉田紗南と倉田実紗子が血の繋がりのない母娘という設定だった。
作家の実紗子はある日、公園のベンチに置き去りにされている赤ちゃんを拾う。その日が3月7日だったことから紗南と名づけ、周囲の反対の声を押し切って彼女の母となったのである。
愛を持って育てていた実紗子だが、紗南が5歳になったとき、「あんたは私が産んだんじゃないのよ。私はどうしても本当の母親に会いたい。だから有名になって呼びかけよう」と提案する。わずか5歳でこんな爆弾発言をスッと受け入れた紗南も凄いが、実紗子も実紗子なりにずっと実母に対する複雑な感情を抱いていたのだろう。
約束通り自伝『娘と私』を介して「母親名乗り出なさい」とメッセージを送り、それに反応した実母が名乗り出る。実紗子は実母にビンタをかましたり出産の責任を語ったりと、紗南を捨てたことへの長年の怒りをぶつけた。
一方で、実紗子は実母が紗南を連れて行ってしまうかもしれないという不安も抱えていた。しかしそれは紗南も同様。実紗子が自分を手放すために自伝を出したのではとネガティブな感繰りをしていたのである。
紗南は実母に「あなたには2度と会いません」ときっぱり告げ、義母との生活を選ぶ。泣きながら「私ずっとここにいてもいいんでしょ?」と問う紗南に実紗子が「あたりまえでしょ」と答えたとき、改めて一つの家族になった。
漫画の義母は、命を落とすという悲しい結末が描かれることもしばしば。しかし、漫画だとしても子を想う気持ちや過ごした日々の濃さ、家族で過ごした幸せな時間は何ものにも代え難いものだ。