■『楽しいムーミン一家』スナフキン「誰かを崇拝するのは自分の自由を失うことだよ」
世界中で愛され続ける『ムーミン』シリーズに登場する、さすらいの旅人・スナフキン。何ものにも縛られない生き方で多くのファンから羨望の眼差しを集める彼は、”憧れ”について含蓄あるセリフを残している。
1990年から放送された『楽しいムーミン一家』(テレビ東京系列)第24話「帰ってこないスナフキン」中盤で、スナフキンは深い森でひとり焚き火に当たる。そこに1匹の「はい虫」(ムーミンに登場する小さい生き物)が現れるのだが、これがスナフキンの大ファンだというのだ。
大好きな人と知り合えたはい虫は大興奮。「あなたはなんでも知っている」「名前のない僕にすばらしい名前をつけてください」など、とにかくスナフキンを持ち上げる。だが、当のスナフキンがこう切り返す。
「あんまり誰かを崇拝するのは、自分の自由を失うことだよ」と。
はい虫のように誰かに憧れすぎると、自分の願望や理想もすべてその人ありきになってしまう。それは本当に良いことなのだろうか? 孤独と自由を愛し、その価値に悩み続けてきたスナフキンが語る「自由」には、考えさせられる重みがある。
ちなみに問題のはい虫は「そんなすばらしいことも知ってるんだ!」と、ますますスナフキンに惚れこんでしまう。崇拝を咎めたつもりが逆効果になってしまうスナフキン、なんてカッコイイ罪な男なのだろう。
今回見てきた名言を振り返ると、”憧れ”は毒にも薬にもなりうるのだと思える。ルビーのように夢への原動力になることもあれば、藍染やスナフキンが語るように、憧れているからこそ見落としてしまうものもある。
大谷さんの「憧れるのをやめましょう」もそうだ。メジャーリーグのスーパースターに憧れるのは良くても、試合で戦うならその気持ちに蓋をして勝つつもりでプレイすべき。そうしたからこそ彼らはWBCで優勝し、私たちに感動を与えてくれたのだ。
当たり前に使っているようで、実は奥深い”憧れ”。この機会にその意味を考えるのもいいかもしれない。