■違う人間であると理解すること

 この「別れない努力」を怠りはじめるのは、いつからなのか。思うに、それは相手が自分とは違う人間であると意識しなくなったときからではないだろうか。

 同8話では、ケンジが友人の同性カップルをシロさんに紹介する場面がある。そのとき人目が多い店を選んでしまったため、会話の内容などから周囲の客に彼らが同性愛者だと知られてしまう。それはケンジたちにとっては平気でも、シロさんにとってはとても嫌なことだ。案の定、シロさんは機嫌を損ね、ケンジの友人にも感じ悪く接してしまう。

 一見、シロさんがケチな男に見えてしまう話だが、ケンジはそんな彼を一度も責めない。逆に、自分とシロさんでは考え方が違うことを忘れていたと反省し、配慮に欠けた行動を謝った。

 長年連れ添うと、つい相手が自分の一部のように思えてしまうが、やはり相手は自分とは違う人間だ。違う葛藤を抱え、違う価値観を持っている。それを絶えず意識するのは難しく、互いに嫌な思いをすることもあるだろう。そんなとき大事なのは、今一度相手が違う人間だと気づき、いかにそれを尊重できるかではないだろうか。

 ちなみに、このときシロさんは己の器の小ささに腹を立てており、ケンジに謝られて余計に気まずい空気に。しかし翌朝、「俺シロさんのハンバーグ食べたい」と夕食のリクエストをするケンジの一言で、緊張した空気は一気にほどける。

 このさりげない仲直りも、料理好きなシロさんが受け入れやすく日常に戻りやすい話題であり、相手への気遣いが窺える。常にシロさんを思いやるケンジだからこそできる、素敵な仲直りの仕方だ。

 

 作中に登場する恋人たちの関係性は、同性愛ならではの形で描かれることが多い。しかしそれらを突き詰めていくと、同性愛も異性愛も関係なく、人と人との間で大切にしたいことであると気づく。

 一番近い距離にいる人だからこそ、気を遣わずに済む気楽さがある。だからこそつい甘えすぎてしまい、日々の思いやりを忘れてしまいがちだ。それを丁寧に描いて思い出させてくれるから、本作は多くの人の心を動かすのだろう。

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