バトル漫画には自分にも使えそうと思えてしまう必殺技があって、かつては真似をしてみようとしたものだった。もちろん現実的にはできないと分かっているのだが、『ドラゴンボール』の「かめはめ波」などは気を溜めて何とか放とうとしたものである。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の「アバンストラッシュ」を傘を使って真似したこともあるが、傘を壊して母親に怒られた同志も多かっただろう。
さて今回は、そんな自分でもちょっと頑張れば使えそうだったが、やっぱり使えない必殺技を振り返ってみよう。
■心臓を狙って時を止めよ! 下手すりゃ殺人未遂の「ハートブレイクショット」
ボクシングの大人気漫画『はじめの一歩』(森川ジョージ氏)には、「ハートブレイクショット」という必殺技がある。これを得意としたのが伊達英二。コークスクリュー・ブローを正確に相手の心臓に打ち込むことで、相手の動きを麻痺させるというものだ。
し、心臓に攻撃をヒットさせるなんて……。普通に考えればとてつもなく怖いのだが、伊達の生きざまに痺れて真似しようとしたもの。もちろん、こんなことを友達にすればケンカになるし、実験台にしようものならイジメになる。いや、立派な傷害事件、下手すりゃ殺人未遂だ。
ともあれ、そもそもコークスクリュー・ブローが使えない。『ろくでなしブルース』の前田太尊は、アッパーを途中からフックに変えることでこの技を実践していたが……。
なるほど、10円玉を拾う感じからアッパー、からのフックを放ってみたが、どうも違う。ボクシング未経験なので当たり前か。
しかも伊達は心臓を狙っている。一般的に大人の人間の心臓というのは握りこぶし程度。これを正確に狙って打たなければならない。当然ながら相手選手も動くし、タイミングを計ってピンポイントで狙い撃つのだ。こんなの必殺技というよりも神技だろう。
そして、パワーも必要だ。伊達は幕之内一歩相手には成功したものの、リカルド・マルチネスとの試合では拳が砕けていたのでパワーが足りず効かなかった。
なるほど、こんなの真似できるわけないな。
■布団に拳を添えて打つべし! 壁に使って皮が擦りむけた「無空波」
バトル漫画の中でも異種格闘技を面白くしてくれたのが、『修羅の門』(川原正敏氏)だ。第一部では主人公が使う「陸奥圓明流」対「神武館空手」となるのだが、ここで奥義「無空波」が登場する。拳から全身のパワーを衝撃波として相手に叩き込む、回避不可能の神技である。主人公の陸奥九十九によると、布団に拳をそえてそのスピードだけで打ち抜く練習をするらしい。
これを真似した男性読者は多かっただろう。筆者も当然ながら布団に挑んだものだ。もちろん、布団は揺れるだけ。……そうか、スピードが足りないのかもしれない。筋力を付けるトレーニングを30分(少ない)頑張ってから、再度挑戦するのだが、布団はあざ笑うかのように揺れたまま。
ええい! しまいには布団にただパンチを繰り出すだけになっていたものだ。九十九はコンクリート壁に拳をそえて、その振動で離れた位置にある窓ガラスを割っていた。なるほど、柔らかい布団だから無理なのか。固い壁を相手にすればいけるかも……と思ったのだが、もちろんできるはずもなく、手の皮が擦りむけてしまった。
あのシーン、恐らくは「無空波」ではなくそれとよく似た「虎砲」らしいのだが、まあどっちにしても陸奥圓明流の必殺技はできそうにもないな。