時に漫画は、大きなブームを生み出すことがある。たとえば、空前のブームを巻き起こしているサウナ。これは、タナカカツキさんによる漫画『サ道』が火付け役だと言われている。サウナで心身ともに心地よい状態になることを指し示す「ととのう」という表現も、この漫画から生まれた。そこで今回は、漫画が火付け役になったブームを「少女漫画」に絞って振り返ってみようと思う。
■『L♥DK』から山﨑賢人=壁ドン王子に?
「壁ドン」は、壁を背にしている相手と向き合い「ドンッ」と壁に片手をつく行為の略称である。男子の強引さや荒々しさを感じるシチュエーションなうえに、相手と顔がグッと近づく「壁ドン」が漫画に登場すると、「これはドキドキする!」という女子が続出。10代〜20代の女子を中心に一大ブームを巻き起こした。
火付け役となったのは、2009年に『別冊フレンド』で連載がスタートした渡辺あゆさんによる漫画『L♥DK』。ひょんなことから同居生活をする羽目になった奥手な女子高生・西森葵とクールでオラオラ系な久我山柊聖の「ラブ同居」を描いた青春ラブコメだ。
『L♥DK』は二度に渡って実写映画化もされており、2014年版では剛力彩芽さん、山﨑賢人さん、2019年版では上白石萌音さん、杉野遥亮さん、横浜流星さんが出演し、作中の「壁ドン」シーンが大きな話題を集めた。
同作のヒット以来、様々な形に派生していった「壁ドン」。両手を壁につける両手ドン、肘を壁につける肘ドン、手ではなく足を壁につけて行く手を遮る足ドンなどのパロディも生み出された。
現在のようなブームになったのは『L♥DK』がきっかけだが、実は「壁ドン」は以前から少女漫画でたびたび描かれていた。たとえば1982年に連載が始まった『ときめきトゥナイト』。同作では真壁俊が江藤蘭世に両手で壁ドンをするシーンがあった。
さらに以前だと、1972年に連載が始まった『ベルサイユのばら』でオスカルがディアンヌを捕まえて「壁ドン」をするシーンがある。いつの時代も“強引に相手を引き付ける”行為としては壁ドンが最適解だったのかもしれない。
■飼いたい人続出!『動物のお医者さん』シベリアンハスキー
狼のようなワイルドな外見と人懐っこい性格のギャップが魅力の中型犬、シベリアン・ハスキーも、漫画がきっかけで一大ブームとなった。火付け役になったのは、『花とゆめ』で1987年に連載がスタートした『動物のお医者さん』である。
同作に登場したのが、主人公・西根公輝の飼い犬でシベリアン・ハスキーの「チョビ」。このチョビが、従順で温厚な性格をしていて非常に可愛いのだ。『動物のお医者さん』は「あそぼ」といった動物たちの心の声を文字で描くことで、より一層可愛さが引き立てられていたように思う。
80年代後半〜90年代初期の日本では、マルチーズやヨークシャテリアといった犬種が流行っており、シベリアン・ハスキーという犬種は浸透していなかった。ゆえに、チョビの登場は読者に大きな衝撃を与える。
漫画が人気になるにつれ、「ハスキーを飼いたい!」という人は増えていった。ペットショップでも高値でハスキーが売られ、90年代に入った頃には人気のピークを迎える。中には「チョビ」という名前をつける人もいた。
しかし、このブームは衰退とともにペットを放棄する人が増えるという悲しい出来事を生み出してしまった。ハスキーは20キロ以上になり運動量も膨大。極寒地が原産なので、日本で育てるには知識も必要だ。そういった生態を知らずに漫画を見てハスキーを飼いだした人々が、育てきれなくなってしまったのである。
これは決して『動物のお医者さん』が悪いわけではない。むしろ、漫画には「育てるなら責任をもって」というメッセージ性も含まれていた。ペットブームはいつの時代も起こるが、こういった悲しい出来事が起こらないようになってほしいものだ。