格闘漫画において、師匠と弟子の関係は大事だ。長く愛される師匠ほど、弟子の成長も著しい。
筆者の大好きな師匠といえば、やはり『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』に登場するアバン先生だ。現在は『Vジャンプ』で連載中のスピンオフ作品『勇者アバンと獄炎の魔王』で、若かりしころのアバン一行の活躍を読むことができる。
アバンほどではないにせよ、格闘漫画に登場する師匠たちはみな、凄まじい努力があって今があるもの。今回は、弟子に慕われている“伝説の師匠”たちを見ていこう。
■土手に丸太を拳で打ち込み鉄拳を武器にする『はじめの一歩』鴨川会長
まずは『はじめの一歩』(森川ジョージ氏)による鴨川源二だ。主人公の幕之内一歩や鷹村守が所属する鴨川ジムの会長で、根性や気合といった精神論を説きながらも、ボクシングを科学的根拠に基づいた理論で指導している名伯楽である。
そんな鴨川にも当然ながら若い時代があり、まだボクシングが“拳闘”といわれていた戦後のころに遡る。戦時中は徴兵され出征し、終戦後に拳闘の選手として戦うも、すでにピークは過ぎていた。試合日程も過密で、現役を知っている人がほとんどいない伝説の時代だ。
そしてライバルの猫田銀八が元世界ランカーのアメリカ軍人、ラルフ・アンダーソンに敗れ、その敵討ちを取ろうと修練を積む。アンダーソンは本場の技術を持ち合わせており、さらに階級も全然上。現代のボクシングであれば、試合は成立しないほどの難敵だった。
しかし、その体格や技術の差を埋めようと、鴨川は土手に丸太を打ち込んで拳を鉄のように固くする修練を積む……まさに鉄の意思による“鉄拳”だ。
試合当日、これまで日本人を舐めてきたアンダーソンは、苦戦した猫田戦で自分の過ちに気付き、完全に体を仕上げてきた。鴨川はアンダーソンの技術にまったく付いていけず、終始劣勢となっていたが、勇気を振り絞って耐え凌ぐ。
ついに左ボディがアンダーソンの脇腹に入り、肋骨を粉砕! どんな拳やねん……と驚いたのもつかの間、その左拳は砕けてしまった。だが、鴨川は“もう一つある”といって右拳を握りしめ、ボディをもう一撃喰らわせる。なんとグローブをはめているのにアンダーソンのボディに拳の跡が付くほどの威力だ。
たった二撃でアンダーソンは沈み、鴨川は勝利した。このエピソードは広島から来たユキという女性の存在もあって、鴨川の男気に涙したものだった。そして、この拳を受け継いだのが一歩というのも痺れる展開だ。カッコいいぜ、会長!
■世界一の武闘家でありながらスケベ全開の『ドラゴンボール』亀仙人
日本で1番知名度の高い格闘漫画といえば、『ドラゴンボール』(鳥山明氏)であるのは間違いないだろう。主人公・孫悟空はカオスなほどの強さを身につけていくのだが、ストーリー全体を通しての師匠といえば、やはり武天老師こと亀仙人といえる。
亀仙人は300歳を超える年齢ながら驚くほどの強さであり、恐らく全盛期にはとんでもない伝説的な武闘家だったことがうかがえる。アニメでは悟空との共演も少しあったが、原作で若いころのシーンが描かれていたのは、ピッコロ大魔王に戦いを挑む師匠の武泰斗に付きそう程度。
それでもカリン塔に登り、3年かかって超聖水を飲むことができるなど、常人とは違う視点で強さを身につけてきたことが分かる。なにより「かめはめ波」を50年かけて生み出したのだ。その修行も凄まじいものだったのだろう。
「かめはめ波」は、格闘漫画の必殺技ランキングで常に上位に入るほどの人気技だ。日本のみならず、世界中でこの技を真似した子どもたちは多いだろう。それだけでも、亀仙人の功績は素晴らしい。
ただ、とにかくスケベ全開なのだ。いつも“エロジジイ”とブルマに言われ、読んでいるこちらが恥ずかしくなるくらいギャルの下着を欲しがり、ボディタッチにも余念がない。それでいてあれほど弟子たちに慕われているのだから、不思議なジイさんだ。
まあ、傍若無人な悟空に礼儀を教えて基礎体力を向上するユニークな修行をさせ、さらに神様ですら諭すことができる亀仙人。“伝説の師匠”と呼ぶのにふさわしい人物だろう。