2023年7月28日に公開された劇場映画『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』では、敵キャラとしてゲスト登場したシュゴッダム初代国王・ライニオール役の中村獅童さんなどとともに、悪政を敷いた先代トウフ女王殿・イロキ役の雛形あきこさんに注目が集まった。
なかでもツイッター(現X)でイロキ役を誰よりも喜んだのが、雛形さんの夫であり『仮面ライダー剣』で仮面ライダーギャレン(橘朔也)役を演じた天野浩成さんだ。後に9月24日放送の『王様戦隊キングオージャー』で天野さん自身も敵幹部のグローディ・ロイコディウム役で登場すると、TV出演していないイロキや雛形さんが再びトレンドをにぎわせたのである。
スーパー戦隊シリーズの女性悪役にはヒロインと同じくらい、もしくはそれ以上のインパクトや魅力を持つ者が多い。特に生身の姿で演じ、ヒーロー側を追い詰める女幹部の美しさと強さは子どもだった私たちの心をガッチリ掴んで今も離さない。そんな悪の魅力に満ちた懐かしの女幹部を紹介する。
■昭和の悪役女優が2作品続けて熱演した強烈な女ボス…ヘドリアン女王
最初に取り上げる女幹部は『電子戦隊デンジマン』(1980年)からヘドリアン女王を紹介する。異次元人ベーダー一族の指導者である彼女は、48年続く「スーパー戦隊シリーズ」の中でも異例の存在だ。
最終回で全ての同胞を失ったヘドリアン女王だったが、デンジマンに「勝ったと思うなよ」と捨て台詞を残し姿を消してしまう。つまり、ヘドリアン女王は"負け"はしても"倒されて"はいないのである。こうして翌週から『太陽戦隊サンバルカン(1981年)』がスタートするが、本作の敵・機械帝国ブラックマグマが北極の氷の中で眠っていたヘドリアン女王に"メカ心臓"を移植し第5話で復活させてしまうのだ。
スーパー戦隊のTVシリーズにおいてヘドリアン女王は唯一「2作品に跨ってレギュラーを手にした敵キャラクター」なのである。
また、ヘドリアン女王といえば頭に大きな角のついた衣装も魅力的だが、これはアメリカのマーベル作品『マイティ・ソー』のヴィラン(悪役)「死の女神ヘラ」のデザインを流用したもの。この時期の東映はマーベル社とコラボ特撮『スパイダーマン』(1978年)を制作し、その際「マーベルのキャラクターを使っても良い」という契約を結んでいたのである。こうして誕生したヘドリアン女王であったが、蘇った『サンバルカン』での彼女はまるで「ミラーボール」のような頭となりファンを驚かせた。
そんな彼女を文字通り“怪演”したのが、昭和の特撮作品で多くの悪役を演じた曽我町子さん。曽我さんは女優以外に声優としても活躍し、1965年から放映された『オバケのQ太郎』では主役のQ太郎などを担当するなど、昭和の子どもたちにとっては欠かせない存在だった。
現在『キングオージャー』にて女幹部ヒルビル・リッチの声を担当する沢城みゆきさんは、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992年)で曽我さん演じるパンドーラに憧れていたとコメントしている。2006年に68歳で死去された曽我さんだが、今なおカッコイイ女王として私たちの記憶に残り続けるだろう。
■まさに男装の麗人!?映画では人魚との美しい愛を演じた…地帝王子イガム
次に紹介する女幹部は『光戦隊マスクマン』(1987年)に登場する地帝王子イガム。中性的で美しい容姿を持つ人物だが、実は第45話でその正体が女性であると判明する。
イガムは地上侵略を企む地底帝国チューブの幹部であるが、かつては地底世界を治めていたイガム家の後継者でイアル姫とは双子の姉妹。しかし、女性では王家を継げないしきたりのため、姉のイガムは師匠のゴダイドグラーから男として育てられ、その事実は妹のイアルさえ知らなかった。イガム家再興のため地帝王ゼーバに従い、スパイとして地上に送り込んだ妹イアル(美緒)が敵であるマスクマン・タケルと恋に堕ちたうえ裏切ったことで立場が悪くなるなど、作中ではかなりの苦労人として描かれている。
妖艶なイガムを演じたのが、双子の妹イアルとの二役を担当した浅見美那さん。筆者は1987年の「東映まんがまつり」で『聖闘士星矢』などと同時上映された本作劇場版を当時鑑賞したが、イガムが人魚レライに虚言ながら愛を語るシーンは、美しすぎてドキドキした記憶がある。
ちなみに『電撃戦隊チェンジマン』(1985年)に登場するギルーク司令の副官シーマは美しい女性幹部でありながら普段は男性の声だが、記憶を失ったときなどは女性の声になるワケありのキャラであった。