『鬼滅の刃』時透無一郎に『呪術廻戦』乙骨憂太…敵をイラつかせて勝敗をも左右した漫画キャラの毒舌セリフの画像
劇場版『呪術廻戦 0』 DVD(東宝)(C)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (C)芥見下々/集英社

 バトル漫画で戦っている場面や、スポーツ漫画の試合中などに、ついつい相手をイラつかせてしまうような言動をしてしまうキャラクターがいる。生来の天然キャラで悪気はないものだったり、戦略としてわざと怒らせるためのものだったりと、その内実は様々だ。そのセリフの内容が、的確に相手がイラつくポイントを突いていればいるほど、本来の実力を覆して勝敗にまで影響してくることがある。

 天然であっても故意であっても、その話し方はおおむね冷静なことが多いのだが、それが余計に相手の神経を逆なでしてしまう。そこからペースを乱されてしまった相手は、本来の力を発揮することができなくなってしまうのだ。激しいアクションで見た目も派手な「動」のシーンに対して、こうしたセリフのやり取りで戦局が左右される「静」のシーンがあることによって、作品の展開にもメリハリが生まれる。

 そこで今回は、敵を言葉巧みにイラつかせて勝利を得たキャラクターと、そのセリフとを紹介していきたい。

■『鬼滅の刃』時透無一郎「なんかその壺形歪んでない? 左右対称に見えないよ下っ手くそだなあ」

 まずは吾峠呼世晴氏による『鬼滅の刃』(集英社)に登場する柱の1人、時透無一郎の毒舌から紹介していこう。無一郎の性格はその名前からも無気力というのがぴったりかもしれない。戦闘中にも関わらず覇気というものが全く感じられないので、つい「本当に勝つ気があるのか?」と思ってしまうほどだ。

 そんな無一郎が初めて単独で戦う姿を見せたのが、上限の鬼の玉壺との戦いである。序盤は玉壺の能力を見極めることができず苦戦する無一郎だったが、記憶を取り戻し「痣の者」として覚醒したことをきっかけに反撃を開始する。

 それも直接的な攻撃ではなく、まずは言葉で玉壺を煽っていくのが、一見物静かな無一郎のイメージとかけ離れていて、その対比が面白い。しかし、玉壺もそう簡単には乗ってこない。「どうせ君は僕に頸を斬られて死ぬんだし」という無一郎の言葉にも、玉壺は「糞餓鬼め」と返すだけで、この時点ではそこまで怒りを露わにしていない。さらに「君の方が何だか便所に住んでいそうだけど」と言っても「安い挑発だのう」と平静を保っている。しかし、「なんかその壺形歪んでない? 左右対称に見えないよ下っ手くそだなあ」という言葉がついに逆鱗に触れてしまう。

 玉壺にとって自らの壺を馬鹿にされることが何よりも屈辱だったということだが、言葉を交わしながら的確にその“ツボ”を突いてきた無一郎の煽りスキルの高さには驚きだ。玉壺はそこから真の姿へと変化して接近戦を挑んできたので、それまでのような姑息な戦い方とは全く様相が異なり、無一郎は逆に戦いやすくなったとも思える。

 結局、霞の呼吸の本領を発揮することができた無一郎が「漆ノ型 朧」によって玉壺の首を落とすことに成功し、勝利した。もし、玉壺が人質を取りながら壺に隠れて戦っていたら、無一郎は勝てなかったかもしれない。ピンポイントで玉壺の怒りの感情を刺激して、自分のペースに巻き込んで真っ向勝負に誘導した無一郎の作戦勝ちと言える。

■『呪術廻戦』乙骨憂太「友達とか恋人とかいないんですか?」

 次に紹介するのは、芥見下々氏による『呪術廻戦』(集英社)に登場する乙骨憂太だ。死滅回游での烏鷺亨子との戦いで、乙骨は石流龍の攻撃を避けながら烏鷺を相手にしなくてはならず、並の呪術師であれば絶望的な状況であった。

 しかし、特級呪術師である乙骨は、作中最強とも言える五条悟を以てしても自分と並ぶポテンシャルがあると認める実力者だ。その戦いぶりには余裕すら感じられ、烏鷺が殺しに掛かってくる最中に、あろうことか「友達とか恋人とかいないんですか?」と、心配した様子で言葉を掛ける。

 それは煽りなどではなく、乙骨が烏鷺のことを心から哀れむ感情から発せられた言葉だったが、だからこそなおさら烏鷺の感情を刺激する。烏鷺は「オマエらのような血族に何が分かる!!」と激怒して乙骨に襲いかかるも、致命傷を与えることはできない。

 完全に頭に血が上った烏鷺には冷静な判断ができなくなっていた。そのため、黒沐死に意識が向いてしまったところを乙骨に狙われ攻撃を受け、その場の全員が烏鷺を潰しに掛かる。そして、黒沐死の「爛生刀」の一撃により左腕を切断され、石流の「グラニテブラスト」を受けて気絶してしまった。

 戦闘中に相手を哀れんでみせる乙骨の話しぶりからは、敢えて煽ろうという意図は感じ取れない。純粋に自分の能力に対する自信と戦局を冷静に見極める戦術眼に裏打ちされた余裕の表れでしかないだろう。しかし、こうした極限の状況下だからこそそれが有利に働くが、日常生活では無意識に多くの敵を作ってしまうタイプなのかもしれない。

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