■過去よりも“今ここ”『ベルセルク』ガッツ
復讐のために生きている点では、アクアと『ベルセルク』(三浦建太郎さん)の主人公・ガッツは似ている。といっても、アクアが合理的で目的思考が強いのに対し、初期のガッツはより感情的で場当たり的な印象だ。
旅が進み仲間ができるにつれて、ガッツの目的は次第に仲間を守ることへと変わっていく。過去から現在へと、焦点が移りはじめたのだ。それでも完全には過去を捨てきれず、呪いの武具である「狂戦士の甲冑」を使用すると激しい憎悪に呑み込まれてしまい、仲間を危険に晒すこともある。この状態からガッツが我に返るのには、魔女見習いのシールケが気づかせてくれることもあるし、徐々にガッツ自身で気づいて戻ってくることも増えてきた。
この“気づいて戻す”というのは、実は今流行中の“マインドフルネス”の神髄だ。今すべきことや大事にしたいものがあるのに、気が付くと過去の嫌なことばかり思い出してしまうという人は、まさに狂戦士の甲冑に呑まれた状態だろう。
ここで”あのとき”に呑まれていることにハッと気づき、“今ここ”に意識を戻す。これができるだけで、過去に囚われて時間や感情をすり減らしたり、大事なものを犠牲にしたりすることが減り、人生はだいぶ楽になりそうだ。
今回紹介した方法は、認知行動療法(心理療法の一種)の一つである“ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)”の基本原理と一致する。近年では心理教育の方面でもACTへの注目が高まっているので、自己啓発の一環として知っている人も多いかもしれない。
このACTにおける重要な要素が、「思考や感情に振り回されずに受けとめる」「自分の価値感に沿った行動をする」「今ここに注意を向ける」ということだ。(著名なACTセラピストであるラス・ハリスほか著『よくわかるACT』など参照。)
原理が分かれば、あとは日常生活でひたすら実践練習を重ねるのみ。すでにマスターできている千空、アクアになりきったつもりでしてみてもいいし、ガッツと一緒にもがきながら成長を目指すのも悪くない。“どうせなら、なりたい自分に近づく行動をしましょう”というのが、ACTの本質なのだ。