前川たけし『ブレイクショット』や本宮ひろ志『風の陣』も…人気作家が描いた“めちゃくちゃ熱いマイナースポーツ漫画”3選の画像
ちゃおコミックス『スローステップ』第2巻(小学館)

 実写映画化も決定した人気漫画『ゴールデンカムイ』の作者・野田サトル氏が、アイスホッケーを題材とした新連載『ドッグスレッド』を発表したことが大きな話題を呼んでいる。今回は野田氏のような大物漫画家たちが手掛けた、ちょっとマイナーなスポーツを題材にした作品たちについて見ていこう。

■破天荒な技の数々も漫画の醍醐味…『ブレイクショット』

 前川たけし氏の代表作といえば、1983年から『月刊少年マガジン』(講談社)で連載された格闘漫画『鉄拳チンミ』だろう。格闘漫画の巨匠というイメージが強い前川氏だが、実は一風変わったマイナーなスポーツを取り上げた作品があることをご存じだろうか。

 それが、“ビリヤード”をテーマとしたスポーツ漫画『ブレイクショット』だ。1987年から『週刊少年マガジン』にて、約3年にわたって連載されている。

 高校生である主人公・織田信介は、清城高校ビリヤード部に在籍するたった一人の部員。彼が数々の大会に出場し、強豪たちと戦っていく姿が描かれている本作。

 ビリヤードといえばおしゃれなイメージはあるものの、競技としてはいまいちマイナーな印象を持つ人も多いだろう。しかし本作の連載がはじまったころは映画の影響などもあり、空前のビリヤードブームが巻き起こっていた。

 リアリティ溢れるビリヤードの描写はもちろんのこと、ストーリーが進行するほどに荒唐無稽な大技が飛び出すのも漫画ならではといったところだろう。空中で球の軌道を変える「ダグラスショット」を皮切りに、指が傷付くほどの凄まじい力で手球と的球の両方を空中に飛ばす「Double Headed Snake(双頭の蛇)」といった大技も飛び出す。

 ライバルたちも負けず劣らずで、手球を砕いてその破片で球を落とす「ショットガン・ショット」、7個の球を連鎖させていく「北斗七星」などなど……ビリヤードとバトル漫画のテイストが見事に融合されているのだ。

 また、繰り出されるとんでもない技の数々に、主審がオーバーリアクションをとるというのも一種の“お約束”。本作の主審も名物キャラクターとなっており、最終回までしっかりと登場している。作者が得意とするバトル漫画のノウハウを活かし、“ビリヤード”というマイナースポーツを熱く描き切った作品だ。

■マイナースポーツでもしっかりと描かれた男女の恋模様…『スローステップ』

タッチ』や『H2』といった数々の名作野球漫画を世に送り出してきた、あだち充氏。題材は“スポーツ”でありながらも、男女の恋模様や葛藤までも丁寧に描いた“青春ラブコメ”を得意とする名漫画家である。

 そんなあだち氏が描いたマイナースポーツが、“ソフトボール”だ。1986年から『ちゃお』(小学館)で連載された『スローステップ』は、ソフトボール部のエースピッチャーとして活躍する女子高生・中里美夏を主人公に、彼女に惚れた男子高校生たちとの恋の争奪戦を描いている。

 ソフトボールを題材としながらも、とくに本作が特徴的なのは、美夏の意外な“二面性”だろう。美夏は作中、ひょんなことから「須藤麻里亜」なる別人に扮するのだが、麻里亜として振る舞う彼女のことをボクシング部3年の門松直人が好きになってしまうのだ。

 直人は美夏の同級生・秋葉習とはボクシング部の“ライバル”とも呼べる存在で、二人は美夏を奪うため、必至にボクシングへと打ち込むようになっていく。

 つまり本作は、ソフトボールに打ち込む美夏を描きつつも、彼女に惚れた男子たちがボクシングで恋の争奪戦を繰り広げる様子も同時平行して描いているのだ。さらに、ソフトボール部顧問監督の山桜監悟までもが美夏に惚れているなど、その圧倒的モテヒロインぶりは『タッチ』の浅倉南のようでもある。

 いずれにせよ、二つの異なるスポーツを描きながら、学生たちのどこか不器用で甘酸っぱい恋愛模様をテンポ良く爽やかに表現しているのは、あだち氏の手腕こそ。主人公の持つ奇妙な二面性と、同級生、先輩の思惑が交差する、実に不思議なテイストのスポーツ漫画である。

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