少女漫画あるあるのひとつが、魅力的な性格や外見をしているにも関わらずヒロインに振り向いてもらえない男性キャラの存在だ。結ばれないとわかっていても、ひたむきにヒロインを想うその姿には心が締め付けられたものである。今回は、少女漫画雑誌『りぼん』に連載された名作漫画から、「魅力的だった当て馬キャラ」を3人に絞って振り返ってみようと思う。
■高校生の恋と友情を描く『天使なんかじゃない』中川ケン
まずは、矢沢あい氏による漫画『天使なんかじゃない』の中川ケンから。1991年から連載が始まった「天ない」は、私立聖学園の生徒会メンバーである主人公・冴島翠と須藤晃を中心に繰り広げられる恋愛漫画。彼らの切ない恋愛模様は読者の心を掴み、お洒落なファッションにも注目が集まっていた。
中川ケンは、翠の中学時代からの友人だ。バンド活動をしており、優しくてノリの良い青年だった。中学の頃から翠に片思いしていた彼は、翠をクリスマスライブに誘い「ずっと好きだった 何度もあきらめようとしたけどだめだった でもその日翠が来なかったら 今度こそ本当にあきらめるよ」と長年の想いを告白する。
しかし、このときの翠は晃との北海道旅行の約束があり、晃にぞっこんだった。だが旅行当日、彼のかつての想い人で異母兄の恋人・牧博子がお見合いをする事実を翠は伝えてしまい、晃はそれを止めるために博子の元へと向かってしまう。そして複雑な気持ちのまま置いて行かれた翠はケンのライブへと足を運び、ケンの気持ちを受け入れてしまう。
全身全霊で翠に愛を注ぐケンだが、結果的に翠は晃を忘れられず、晃と寄りを戻してしまう。それにも関わらずケンは、自分を振り回した翠に対してその後も優しさを向け続けていた。
ライブでケンは、翠のことを書いた曲「天使のほほ笑み」を歌えなかったが、この曲がケンの代表作となり、その後ミュージシャンとしてメジャーデビューを果たす。「あの歌は翠の歌だから」と笑顔で翠に話す一途なケンの姿を見て、幸せになってほしいと願った読者も多いのではないだろうか。
また矢沢氏の漫画『ご近所物語』でもケンがチラリと登場する場面があり、主人公・幸田実果子の幼なじみ・山口ツトムはケンに容姿がそっくりという設定。前作で当て馬となってしまったケンだが、矢沢氏にとっても思い入れのあるキャラだったのだろう。
■芸能界で活躍する中学生の恋愛物語『ハンサムな彼女』可児収
1988年に連載が始まった吉住渉氏による漫画『ハンサムな彼女』からは、関西弁が印象的な可児収を紹介したい。同作は、新進気鋭の若手女優・萩原未央が芸能界で繰り広げる恋愛模様を描いている。当時は芸能人という設定の恋愛漫画は珍しく、大ヒットを飛ばした『りぼん』を代表する作品のひとつだ。
未央は、あるとき撮影現場で若手演出家の熊谷一哉と出会う。第一印象は良くなかったが、一哉の情熱に触れるうちに未央は恋に落ちる。
可児収は、熊谷一哉の親友のカメラマン。撮影に関わるために関西からやってきた彼は、未央を好きになる。社交的な彼は未央ともすぐに打ち解けたが、同時に未央と一哉のお互いへの想いにも気づく。
未央が一哉に振られた後、「俺とつきあわへんか? うんと大事にする 一哉のことは俺が忘れさせたるから」と想いを告げた収。一度は保留にした未央だが、一哉への失恋の痛みを収と付き合うことで忘れようとした。
収は、一哉への想いが残っているとわかったうえで献身的に愛を注いだ。しかし未央は想いを断ち切れない。収は、そんな未央に「なんであいつやないとあかんのや! 俺が…こんなにっ」と感情をぶつけるのだった。これだけ一途に愛してくれる美少年を振るとは、未央も罪な女だ。
その後、収は謝罪する未央には「一哉はほんまは未央ちゃんのことが好きなんや」と言い、一哉に対しては「おまえじゃないとあかんのや」と未央と向き合うことを促し、2人の恋を見守った。どこまでも優しい男である。