スポーツ漫画には主人公を支え、彼らを導いていく偉大な“父親”が登場するものだが、不幸にも作中で死亡してしまった者も多い。主人公の憧れでありながら、あまりにも悲しい死を遂げた“父親”たちについて見ていこう。
■息子へとしかと受け継がれた“野球魂”…『ＭＡＪＯＲ』本田茂治
数々のスポーツ漫画のなかで、未だに根強い人気を誇るジャンルといえば野球漫画だろう。１９９４年から『週刊少年サンデー』（小学館）で連載された満田拓也氏の『ＭＡＪＯＲ』も、そんな“野球”をテーマにした作品である。
主人公・茂野吾郎（出生名・本田吾郎）の野球人生を幼少期から描いた本作だが、亡くなった母の代わりに吾郎を男手一つで育てた“父親”こそ、通称・おとさんと呼ばれる本田茂治だ。
横浜マリンスターズ（アニメ版では横浜ブルーオーシャンズ）でプロ野球選手として活躍していた茂治だが、その人生は不幸の連続だった。早くに妻・千秋に先立たれて以降、野球に打ち込もうと猛練習に励むもこれが原因でヘルニアを患ってしまい、さらに遠征先で肘を痛めるなど、一時は引退寸前まで追い詰められてしまう。
だが、息子・吾郎の熱い気持ちや、同僚である茂野英毅の薦めを受けて野手へと転向。球団と再契約を結んでからは、めきめきと頭角を現していくこととなる。
プロ野球選手として再起していく茂治だったが、来日した名投手、ジョー・ギブソンとの一戦において、頭部へ１５８ｋｍ／ｈの死球を受けてしまう。さらに、転倒した際に自身が落としたバットで後頭部を強打することとなった。
試合中はとくに変わった様子を見せていなかった茂治だったが、頭部への痛打の数々が“頭蓋内血腫”を引き起こし、翌朝、トイレに立った際に倒れ、帰らぬ人に……。
息子・吾郎はもちろんのこと、彼の死が登場人物たちに与えた影響ははかりしれない。３１歳という若さでこの世を去った茂治だが、生きざまや野球への思いはしっかりと息子へと受け継がれていくこととなる。
父として主人公を支え、そして最後まで憧れの野球選手であり続けた、なんとも物悲しいキャラクターだ。
■死してなお語り継がれ続ける“岩手の虎”の雄姿…『六三四の剣』夏木栄一郎
１９８１年から『週刊少年サンデー』（小学館）で連載された村上もとか氏の『六三四の剣』は、日本の代表的な武道の一つ、“剣道”をテーマとした正統派スポーツ漫画だ。
両親ともに剣道の実力者である剣道一家に生まれた主人公・夏木六三四の成長・活躍を描いた本作において、彼の目標であり作中屈指の実力者として登場するのが、父・夏木栄一郎である。
栄一郎は岩手県警機動隊に在籍しており、“岩手の虎”の異名を持つ実力者だ。大酒飲みだが、一方で剣の腕前は達人級。短刀を持ったヤクザ相手に酔った状態ですら“爪楊枝”一本で立ち向かい、難なく撃退してしまうほど。
その圧倒的な実力で全日本大会を勝ち進む栄一郎だったが、準決勝の相手である大学時代の先輩・東堂国彦との立ち合いが、彼の運命を大きく変えてしまう。
揺らぎのない正確無比な“静”の剣を使う東堂に対し、彼の放った“突き”をくらうも、栄一郎はものともせずに勝利を収める。その後、見事に大会二連覇を果たした栄一郎だったが、東堂から受けた突きがきっかけで重傷を負っており、大会優勝後に死去してしまう。
この出来事は息子である六三四に大きな衝撃を与え、しばらくは父の死のきっかけを作った東堂に対し、強い恨みを抱かせることに。一方、東堂自身は栄一郎のことを最大の宿敵と認め尊敬しており、それを知った六三四は己の抱いた復讐の念とも戦っていくこととなる。
息子・六三四のみならず、警察関係者や多くの人々に死後も強さの“象徴”として心に残り続けた、実に力強い父親キャラだ。
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