■人間を愛し人間を憎んだ『ダイの大冒険』バラン

ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)に登場するバランは、登場時は復讐がキーワードのキャラだった。強大な力を誇る「竜の騎士」でもあるバランは、憎き人間を滅ぼすべく息子のダイと敵対する。

 バランが人間を敵視する理由は、最愛の妻を人間に殺されたためだ。かつてアルキード王国の王女ソアラに命を救われたバランは、彼女と夫婦の契りを結ぶ。しかし、人間でないバランが王女と夫婦になることを王国は認めなかった。

 騒動の果てに王国の人間の手で殺されてしまったソアラ。それを目の当たりにしたバランは、「なんと…なんという自分勝手な生き物なのだ!!」と人間という種族に失望した。その失望は憎悪に変わり、人間を殺戮する魔王軍の竜騎将・バランとして戦うようになる。

 人間のソアラを愛したからこそ、彼女を奪った人間そのものを憎む。そんな悲しい矛盾を抱えるバランは、人を慈しむ心があるからこそ復讐者になったキャラともいえるだろう。

 ダイたち勇者パーティとの戦いの中でも、バランは葛藤をくり返す。そして息子との死闘の果てに人が持つ心の強さを認め、人間への復讐を過ちだと悟るのだ。

 

 復讐キャラの多くは大切な人やものを奪われた過去を持っている。大事な何かを失って悲しむ心があるからこそ犯人を恨み、復讐の炎をたぎらせるわけだ。優しくなければ、そもそも復讐鬼になったりしないのではないだろうか。

 だからこそ復讐キャラは大義と良心の狭間で葛藤をくり返し、読者はその姿に共感を覚えるのかもしれない。

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