復讐劇は、漫画やアニメで定番のストーリーだ。悪役が報いを受けるカタルシスもさることながら、復讐をめざすキャラの心情も見どころのひとつだろう。
中には復讐の炎を燃やしながらも、内に秘めた本来の優しさがどうしても邪魔をするキャラも少なくない。彼らが見せる葛藤には、読者の感情に強く訴えかけるものがある。そこで今回は、非情に徹しきれず苦悩した復讐キャラを見ていこう。
■復讐より友を選んだ『HUNTER×HUNTER』クラピカ
まずは、冨樫義博氏の『HUNTER×HUNTER』に登場するハンター・クラピカ。クルタ族と呼ばれる少数民族の生き残りであるクラピカは、一族を皆殺しにした「幻影旅団」を狙う復讐者だ。
その執念はすさまじく、念能力「束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」には、旅団のメンバー以外に使うとクラピカ自身が死ぬ制約がついている。旅団一の怪力を誇るウボォーギンをも拘束するほどの力は、クラピカの決意と覚悟の証だ。
「ヨークシン編」でクラピカは、ゴン、キルア、レオリオらハンター試験の同期メンバーの協力のもと、旅団を確保する計画を実行した。しかし、作戦の途中でゴンとキルアが旅団の手に落ちてしまう。
クラピカが真の復讐鬼ならば、ゴンたちに構わず旅団壊滅を目指したかもしれない。だがクラピカは計画を変更し、旅団の団長・クロロ=ルシルフルを捕らえたうえで旅団に人質交換を要求するのだ。
計画を立てる際、クラピカは協力を申し出たゴンたちについて「私はいい仲間を持った」とも語っている。同胞の仇討ちという大義を志すが、友であるゴンたちも大切。非情と温情を併せ持つ二面性は、クラピカの大きな魅力といえるだろう。
■憎い敵に共感してしまった『進撃の巨人』エレン
諫山創氏による『進撃の巨人』のエレン・イェーガーは、復讐を理由に戦い始めた主人公だ。10歳のころに母親を巨人に食べられたエレンは「駆逐してやる!! この世から… 一匹残らず!!」と涙ながらに宣言。その後は調査兵団に入り、巨人を滅ぼすために戦うようになる。
そんなエレンの強烈な憎悪は、幼年期から抱き続ける自由への渇望も相まって、読者の胸に突き刺さるほど鋭く重い。
だが、エレンの憎しみは物語の終わりまでもたなかった。真の敵がパラディ島の外に広がる世界そのものだと判明してから、彼の復讐は揺らぎだす。
最初は外の世界と友好的な関係を築こうと考えるも、外の世界は自分たちを滅ぼしたがっている。やがて「地鳴らし」による人類殲滅しか自分たち島の人間が生き残る道はないと、エレンは思い知らされるのだ。
外の世界の人々も自分たちと同じ人間だと考え、苦悩するエレン。何も知らないマーレの少年に「ごめん… ごめん…」とエレンが涙ながらに懺悔するシーンは、彼の苦しみを象徴するシーンだ。
エレンが復讐だけを考えて「母親が巨人に食われたのは外の世界のせい」と割り切れれば、その絶望も少しは和らいだかもしれない。だが、エレンが地鳴らしを決意した最たる理由は、ミカサやアルミンたち仲間に幸せに生きてほしいからだった。
そんな優しいエレンだからこそ、殺すべき外の世界の人類にも同情してしまったのだ。