■恐怖のなかにも女性の悲しき史実が見え隠れした「丑三つ時の女の巻」
コミックス11巻に掲載されている「丑三つ時の女の巻」は、可憐が鬼に体を乗っ取られて復讐を果たそうとするストーリーだ。
スキー場で遭難した可憐は防空壕のような場所に避難し、寒さのあまりそこにあった仏像を燃やしてしまう。無事に生還したものの、そこから可憐の身に次々と不可解なことがおこりはじめる。食事が取れなくなり、爪が異常に伸び、頭にはこぶのようなものが……。実は燃やした仏像には女の執念が閉じ込められており、それが可憐を支配していたのだ。
『有閑倶楽部』はすべてフィクションなのだが、このストーリーは妙にリアリティがあった。戦後の日本では女性が1人で生きるのは難しく、権力のある人の言いなりになることもあっただろう。生まれてきた子どもを殺され、悔しい思いをした女が恨みをはらすべく、可憐の体を使い復讐を仕掛けていくのは恐ろしくも悲しい。
ただし、冷酷非道な鬼も、純粋無垢な子どもの前では無力だった。鬼は最終的に復讐を果たすものの、その遺体に寄り添う幼女の無垢な質問が涙を誘う。ホラーストーリーでありながらも、最後は「復讐とは? 母親とは?」を問う展開になっているのが印象的だ。
『有閑倶楽部』では今回紹介した以外にもホラー系のストーリーが多々存在する。しかし、ただ怖いだけでなく、そこに隠された登場人物の気持ちや時代背景、人を愛することとは何か?を問うストーリーになっていることにも注目だ。
一条さんによる見事な画力のため、ホラー描写はすこぶる恐ろしいのだが、同時に感動を与えてくれるストーリーも多い。怖さと興奮、感動も与えてくれる『有閑倶楽部』、今一度読み直してみてはいかがだろう。