■主人公が妨害の鬼!『鉄鍋のジャン!』

 料理漫画の妨害とは姑息な敵がやるものだ。だが、長い料理漫画の歴史のなかには、主人公が積極的に妨害を行う作品が存在する。それが、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で1995年から連載された、西条真二氏、監修:おやまけいこ氏による『鉄鍋のジャン!』だ。

 本作の主人公・秋山醤(じゃん)は、「料理は勝負。勝てばいいんだ」という独自の信念を持つ16歳の中華料理人。醤はその信念に従い、あらゆる手段を駆使して料理対決の勝利を目指す。そして、ときには極悪な妨害に手を染めるケースも珍しくない。

 印象深いのは、第一回全日本中華料理人選手権の予選で醤が作ったキノコのスープだ。一見なんの変哲もないスープなのだが、その正体は2種類のキノコを調合して生み出した「マジックマッシュルーム」入りの特製スープである。

 飲んでしまった審査員は幻覚に襲われ錯乱。おかしくなった審査員に10点満点中5万点をもらった醤が、高笑いとともに本選に出場する……というエピソードだ。主人公の勝ち方ではない。

 まさに極悪非道の料理人なのだが、醤は卑怯なだけではない。普通においしい料理を作らせても一流であり、作中でも味の良さで勝利するエピソードが大半を占める。

 誰よりも勝負に純粋で真剣だからこそ、どんな手でも使う。賛否両論あるだろうが、そんなダークヒーローのような精神こそが、主人公・醤の魅力だといえよう。

 

 このように、バトル中心の料理漫画ではえげつない妨害行為が珍しくない。「なんで料理対決にそこまでするのか……」と思う人もいるだろう。だが、ありえない悪行やそれを乗り越えるカタルシスも料理漫画の「味」といえるのかもしれない。

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