『富江』菅野美穂や『アイアムアヒーロー』有村架純も…実写化作品で“ホラー演技”を見せた女優たちの画像
『アイアムアヒーロー』通常版 [DVD](エイベックス・ピクチャーズ)

 オカルトに幽霊に怪物……さまざまな“怪異”が登場するホラー漫画は、観ている者を妖しい魅力で惹きつける。その高い人気から多くの作品が実写映画化されているが、作中で女優陣が見せた鬼気迫る演技の数々も見どころの一つだろう。今回は、実写化作品でその圧倒的な演技力を見せつけた女優たちについて見ていこう。

■観る者を惹きつける“不死身”の美少女…『富江』菅野美穂

 ホラー作品に登場する女性といえば、『リング』に登場する「貞子」や『呪怨』の「伽椰子」といった名前が挙げられるのではないだろうか。ホラー漫画界にも数々のおぞましい女性が登場するが、なかでもカリスマ的な人気を誇るのがホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二さんが描いた「川上富江」だろう。

 1987年から『ハロウィン』(朝日ソノラマ)や『ネムキ』(朝日ソノラマ及び朝日新聞出版)といったホラー雑誌で掲載された漫画『富江』に登場する人物だが、その高いキャラクター人気からたびたび別作品にも登場し、1999年には同タイトルで実写映画化もされている。

 富江は見た目こそ黒髪の似合う可憐な美少女なのだが、その正体は決して滅びることのない不死身の肉体を持った怪物だ。体をバラバラにしても再生するうえ、なんと分裂し複数の富江が生まれてしまう。

 そんな富江を演じたのが、女優の菅野美穂さんだ。富江は自身の美貌に絶対的な自信を持っており、非常に傲慢な性格をしているのだが、その強烈な性格と身に纏った妖しい魅力で男たちを惹きつけ、徐々に狂わせていく。

 あどけなさや可愛らしさを持つ反面、狂気が入り混じった怪物としてのおぞましさを菅野さんは見事に演じ切り、見る者に強烈なインパクトを与えた。ときに虫を掴み上げて笑うといった怪演の数々に、度肝を抜かれた人も多いだろう。

 この役を演じた当時、まだ21歳だった菅野さん。今や国民的女優として名を馳せる彼女だが、体当たりの演技をはじめ、初々しい姿を見られる貴重な一作だといえるだろう。

■女子高生と怪物という奇妙な二面性…『アイアムアヒーロー』有村架純

 ホラー映画といえば、やはり“ゾンビもの”も外すことができない人気ジャンルの一つだ。謎のウイルスや超常現象によって人々が狂っていく姿は、我々が暮らす社会が崩壊していくリアルな恐怖を植え付けてくれる。

 2009年から『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された花沢健吾さんの『アイアムアヒーロー』は、“ZQN”と呼ばれる怪物(食人鬼)に人間が変貌していく世界で生き残りをかけて奮闘する人々の姿を描いたサバイバルホラー漫画だ。

 その高い人気から2016年には俳優・大泉洋さんを主演に実写映画化されたのだが、本作のヒロインであり、物語においてキーパーソンともなる女子高生・早狩比呂美を、女優の有村架純さんが演じている。

 破壊されていく世界に恐怖し戸惑いながらも、ときに持ち前の優しさを発揮する比呂美。彼女は作中“ZQN”に変貌してしまうのだが、感染具合が中途半端だったため、人としての見た目を残しながら怪物として凄まじい力を発揮することができるようになってしまう。

 感染して以降、比呂美は感情の起伏が乏しくなり、言葉をいっさい発することがなくなった。このため、有村さんは映画後半ではほぼ喋るシーンがなく、無表情でクールな演技を見せている。

 当時のインタビューで「普段絶対にできないことを体験できた面白さがありました」と語っていた有村さん。同一人物でありながら前半と後半でキャラクターの切り替えが必要な難しい役回りを演じきり、表情や声に頼らない仕草のみの演技で比呂美の存在感を際立たせていた。

 “ZQN”になってからも、不意にどこか愛くるしさが覗く有村さんの絶妙な演技に、ぜひ注目してみてほしい。

■少女の復讐心を宿した無機質な演技に注目…『ミスミソウ』山田杏奈

 ホラーといえば怪物や幽霊といった存在だけでなく、我々“人間”の怖さも忘れてはいけない。ときには人間が見せる「闇」が、どんなフィクションの存在よりもおぞましく、狂気的に見えることもある。

 2007年に『ホラーM』(ぶんか社)で連載された押切蓮介さんの『ミスミソウ』は、地方の村へと移り住んだ中学生が壮絶なイジメを体験し、すべてを失ったことによって復讐を遂げていくサイコホラー作品だ。

 強烈な描写の数々で読者にトラウマを植え付けた本作だが、2018年にはまさかの実写化を果たし、壮絶な復讐劇を繰り広げていく主人公・野咲春花役に、約1000人のオーディションを勝ち取った山田杏奈さんが抜擢された。

 山田さんはなんと本作が映画初主演作品。役作りにあたって原作漫画を何度も読み返し、キャラクターの特徴をインプットし続けたという。

 最初は人間的な表情を見せていた春花だが、家族を失い復讐を果たしていくうちに、心が壊れた虚ろな眼差しを浮かべるようになっていく。そんな“目”の変化に注目した山田さんは映画のなかでもできる限りまばたきをせず、サイボーグのように心を無にしながら演技に取り組んだそうだ。

 山田さんの演技は、中学生でありながら復讐に燃える春花の激情や摩耗した心を見事に表現し、不意に現れる目力が彼女のなかに宿った殺意の鋭さ、激しさを観る者に感じさせた。

 初主演でありながら、演じる少女の複雑な感情を極限まで憑依させることに成功した、今後に注目せざるをえない実力派女優の一人である。

 

 暑い夏、そして涼しい風が吹きはじめる秋口にはとくに、背筋がうすら寒くなるホラー作品を観たくなってしまうものだ。

 怪物、ゾンビ、復讐者……実写映画化されてもなお、原作同様の恐怖がしっかりと伝わってくるのは、女優たちのリアリティ溢れる演技のたまものなのかもしれない。

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