■制動距離は隣町まで?『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』初号機

 最後は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』より、碇シンジ搭乗のエヴァ初号機が見せた急制動のシーンを紹介したい。

 光すら歪めるほどの強力なA.T.フィールドをまとい、NERV本部へ向けて落下してくる第8使徒。広範囲に及ぶ落下予測地点をもれなくカバーするために3機のエヴァが総動員され、そのうちの誰かが第8使徒を受け止めるという作戦が決行されることとなる。

 3機ともクラウチングスタートの姿勢を取り、ミサトの合図で一斉に走り出す。すでに避難が済み無人となった町を巨人が猛スピードで駆け抜け、ハードルを越えるように華麗に電線を飛び越えるシーンは、何度観ても圧巻の一言だ。

 音速の壁を越えソニックブームを発生させながら街中を駆け抜け、やがて急制動をかけ第8使徒の真下に辿り着く。怪しく形態を変える第8使徒の姿や躍動する初号機に目を奪われがちだが、速度を殺すためにおそらく数十km単位で地面を削るそのスケール感に圧倒され、思わず笑みがこぼれてしまうのは筆者だけではないはずだ。

 NERV本部と見事に連携し、音速を超えながらも正確な制動距離をもって第8使徒の真下に滑り込んだシンジの操縦技術には、その生き様も含めて敬意を表したいところである。

 

 フィクションの世界でこそ成り立つ、規格外の急制動をおこなうロボットアニメのパイロットたち。スピードを殺した先にあるスピード感ある反撃の演出は、敵だけでなく視聴者の意表も突く黄金パターンなのではないだろうか。

 どの作品においてもパイロットとその機体の魅力を高める急制動という演出の素晴らしさに、共感してくれるアニメファンが多いことを切に願うばかりだ。

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