その巨体を自由自在に操り、ド派手な戦闘を繰り広げるロボットアニメ。中には明らかにパイロットの負担が尋常ではない演出が見られる事もしばしばである。その演出の一つとして挙げたいのが、いわゆる急ブレーキのことを指す急制動である。
今回は、人体への影響を鑑みず急制動をかけ、そのまま反撃に転ずるという荒っぽくもロマン溢れるロボットアニメの演出について、大いに語っていきたいと思う。
■迷いを振り払うように翻る『マクロスF』VF-25F
まずは『マクロスF』より、主人公アルトが「VF-25F」にて行った急制動を紹介したい。
『マクロス』シリーズに登場する機体の多くは3段階の可変性能を有しており、戦闘方法を状況に合わせて柔軟に変化させることができるのが特徴だ。そんな機体の性能上、スラスターの位置がコロコロと変わるため、急制動という機体操作がより多く見られる。
今回注目したいのは第12話「ファステスト・デリバリー」にて、テムジンとの戦闘中に見られたシーンである。
ガリア4にてゼントラーディたちが起こした暴動を止めるため、VF-25Fに乗り主犯であるテムジンとの戦闘を繰り広げるアルト。その血に刻まれた戦闘民族としての本能を訴えかけるテムジンの言葉に、アルトは一瞬思いつめる。呪いにも似た役者の血を持つ自身の境遇を重ね苦悶の表情を浮かべるが、迷いを振り切るように反撃に転ずるのだ。
彼はVF-25Fの足を前方に放り投げるように急制動をかけ、機銃を構えたまま仰向けになるようにテムジンの機体の懐に滑り込む。機銃を撃ちながらテムジンの後方に回り込み、とどめにアサルトナイフで一突きという一瞬での幕引きとなった。
急制動をかけることでテムジンの意表を突き、状況判断の猶予を与えないまま戦闘を終わらせるという、アルトの一瞬の判断が光ったロボットアニメらしいロマン溢れるシーンである。
■「勇気」がなければできない危険な急制動『ガンダム00』ブレイヴ
続いては劇場版『機動戦士ガンダム00 ーA wakening of the Trailblazerー』より、グラハム・エーカー搭乗の「ブレイヴ」を紹介しよう。
突如襲い来る謎の異性体ELS(エルス)との対話を試みるも、脳内に流れ込む膨大な情報量を受け意識を失ってしまった刹那。その後刹那たちガンダムマイスターが戦場からの脱出を試みた際、援軍として現れたのが、グラハム・エーカー率いる「ソルブレイヴス隊」だ。機動力に優れた可変式のMSで、離脱するガンダムを華麗に援護したシーンが印象深い。
槍のような姿で迫りくる無数のELSを背に、戦場を猛スピードで飛び回るグラハム。一度捕まれば終わりという状況下で突如急制動をかけたときには、その身体に計り知れないGがかかっている様子がうかがえる。その後彼は、背後まで迫ったELSの大群の上方に後ろ向きのまま飛び上がると、高威力のドレイクハウリングを浴びせて大群を一気に殲滅するのである。
その後コックピット内で苦しそうに息を切らすグラハムの様子を見ると、疲れ知らずのELSに立ち向かっているのは生身の人間なのだと再認識できる名シーンだ。すまし顔で余裕を見せつつ戦うキャラクターにも魅力を感じるが、物語上で何度もその身を削って強敵に立ち向かうグラハムに惹かれたファンも多かったのではないだろうか。