漫画にはスター・システムというものがある。手塚治虫さんの漫画に登場するヒョウタンツギのように、同じ作家が同じキャラクターを異なる作品に登場させるというものだ。
厳密にはその例からは少し外れるが、漫画の中には、友情出演のような形で、他の作者による漫画キャラが作中に登場するケースがたまにある。両作者の作品を知っている人にとっては思わずニヤリとしてしまう、こうした読者サービスを目撃したことがあるという人は少なくないだろう。
今回は少女漫画にあった、他の作者のキャラが「サービスで登場しちゃった」漫画を紹介したい。
まずは、『りぼん』(集英社)の90年代を彩った2作品から。矢沢あいさんによる『天使なんかじゃない』の中には、吉住渉さんによる『ママレード・ボーイ』のキャラが登場している。
それは生徒会メンバーである麻宮裕子が瀧川秀一と揉めた際、家の中でたまたま点いていたテレビのシーン。画面の中では「リボンピザスペシャルサマーキャンペーン中」というCMが流れていたが、このモデルが『ママレード・ボーイ』の売れっ子美少女モデル・佐久間すずだったのだ。それを見た須藤晃が「ピザとろーぜ」と提案するシーンに繋がる。
なお、コマには作者の書き文字で「苦労して描いたわりに全然似てないけど…」と添えられていることから、矢沢さんが吉住さんの作風に似せて自身で描いたのだということがわかる。
矢沢さんと吉住さんは相当仲がいいようで、このほかにも『天ない』にはウェイトレスや看護婦、エレベーターガールとして「吉住」さんが登場したりしている。
続いては『Kiss』(講談社)にて連載されていた二ノ宮知子さんの『のだめカンタービレ』。15巻には、のだめの作ったカレーで食中毒が起きるという事件があった。
ターニャが痩せるきっかけになったこのカレーの周りに描かれたのが、『イブニング』(講談社)で連載されていた石川雅之さんによる『もやしもん』の菌たち。「ボンジュール」「イエーイ」「かもすぞ」などと言っているこの『もやしもん』の菌たちが、のだめのカレーを醸していたのだ。
逆に、『もやしもん』の4巻38話冒頭と巻末おまけ、表紙の帯の後ろにはのだめと千秋先輩が出てくるということもあった。こちらは大ゴマで登場しているので、気付いた人も多いだろう。
この時期、『もやしもん』の菌たちは『イブニング』連載の漫画など他の漫画に多く出張していたので、他作品で菌を見つける機会は多かった。
さて、2作品の中で見事なリンクを見せたコラボもある。『花とゆめ』(白泉社)で連載を開始した美内すずえさんによる『ガラスの仮面』と、同じく『花とゆめ』で連載されていた和田慎二さんによる『スケバン刑事』だ。
『花とゆめ』1982年号10号に大学時代の親友だという神恭一郎と速水真澄の2人のやりとりが掲載された。
コミックス化された際、『スケバン刑事』20巻では神が、芸能界の裏事情を探るために速水に電話をかけるシーンがある。『ガラスの仮面』24巻では速水がこの電話をとって会話をしており、両作品は見事につながっているのだ。会話の中では速水が神の身を案じる場面もあった。
両作品は『花とゆめ』の看板作品であり、当時の読者にとっては信じられないほどの嬉しいサプライズとなったことだろう。
別の作品に知っているキャラが登場すると、漫画家同士の人間関係などもかいま見えてくる。豪華なコラボは多くのファンを喜ばせたことだろう。