『タッチ』や『ハム太郎』も…予想外のジャンルでファンを驚かせた「漫画原作のゲームソフト」の画像
ゲームボーイカラー専用ソフト『とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ』(編集部撮影)

 有名漫画作品のゲームといえば、作中で活躍するキャラクターたちを原作同様の世界観のなかで操作できるのが大きなウリと言えるだろう。しかし、原作とはあまりにも異なったテイストでゲーム化されてしまった名作たちも、数多く存在する。ファンも思わず驚いた、予想外の漫画原作のゲームたちについて見ていこう。

■野球でも恋愛でもなく“アクション”で大暴れ? 『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』

 1981年に『週刊少年サンデー』(小学館)で連載がはじまった野球漫画『タッチ』は、双子の兄弟・上杉達也と和也とヒロインである幼馴染・浅倉南の三人を軸にした恋愛模様も見どころとなっている、あだち充氏の代表作とも呼べる一作だ。

 そんな本作は、1987年に東宝よりファミコンソフト『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』としてゲーム化されている。

 前述したように、本作は“高校野球”と“ラブコメ”という二つの軸が特徴となっており、ゲーム化となれば当然「野球ゲーム」や「アドベンチャーゲーム」になるのでは?とファンは考えただろう。

 だが、本作はなんと達也と和也を操作し、群がる敵を撃破していく「アクションゲーム」なのだ。

 南の飼い犬・パンチの子どもが異世界へと迷い込んでしまったため、三人はそれを救出するために異世界へと旅立つ……という、なかなかとんでもないストーリー設定が用意されている。

 一応、達也や和也の攻撃手段のなかに“野球ボールを投げる”というものがあるのだが、それくらいしか野球要素は登場せず、立ちはだかる敵も戦車、ピエロ、風船といった荒唐無稽なものが多い。

 原作に忠実なイラストを用いている点や、ゲーム開始直後からすべてのエリアを自由に移動できるといったオープンワールド要素に似通った仕様も当時としては珍しく、2Pプレイができるという点も踏まえ、アクションゲームとして出来は悪くはない。

 しかし、やはり原作が有名であるがゆえに、野球や恋愛といった原作要素がもっと欲しくなってしまったファンも少なくないのではなかろうか……。原作の世界観からあまりにも思い切った方向転換を見せつけた、なんとも意外な一作である。

■“美少女戦士”たちの激闘をリアルに描いた力作! 『美少女戦士セーラームーン』

 1992年から『なかよし』(講談社)で連載された武内直子氏の『美少女戦士セーラームーン』は、“戦う美少女”という新たなジャンルを打ち立て、その高い人気から数多くのメディア展開を続けている作品だ。

 一時期は社会現象も巻き起こした本作だが、1993年にはエンジェルよりスーパーファミコン用ソフトとして、同タイトルの『美少女戦士セーラームーン』が発売されている。

 前述のとおり、原作は可憐な美少女たちが身につけた力を駆使し、悪と戦うバトル要素もウリの一つとなっているのだが、このゲームではその“バトル”部分を強烈に押し出しており、「ベルトスクロールアクション」として表現されている。

 同ジャンルだと『ファイナルファイト』が非常に有名だが、本作でも立ちはだかる数々の敵を、セーラー戦士たちが格闘術や必殺技を駆使して撃破していく。

 仮にも少女漫画を原作としているだけあって、リアルなドット絵で描かれた敵キャラと繰り広げられる肉弾戦は、少しシュールな絵面に見えなくもない。

 まさかのジャンルに思えるのだが、ゲームとしての完成度は非常に高く、練り込まれたゲームバランスは老若男女問わず楽しむことができる良作だ。また、アクションが苦手なプレイヤーのための救済措置が数多く用意されているというのも、嬉しい点だろう。

 加えて、キャラクターごとの個性がきちんとアクションにも反映されており、アニメ同様の多数のボイスが用意されているのも魅力だ。原作アニメの主題歌「ムーンライト伝説」といった名曲も使われており、「キャラゲー」として見ても非常にクオリティが高い。

 少し意外なジャンル選定に戸惑いはするものの、ファンからは総じて高い評価を得ている作品で、原作である『セーラームーン』の良さを前面に押し出した点が功を奏しているといえるだろう。原作が対象としている女性はもちろんのこと、アクションゲームを楽しみたい男性もしっかりと遊ぶことができる、実に隙のない一作だ。

■低年齢向けとは思えない高難易度『とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ』

 1997年に『小学二年生』(小学館)で連載が開始された河井リツ子氏の『とっとこハム太郎』は、のちにアニメ化された有名作品だ。数々の個性的なハムスターたちが登場し、楽しくも騒がしいドタバタした毎日を過ごしていく。

 その高い人気からたびたびゲーム化もされている本作だが、2001年には任天堂からゲームボーイカラー用ソフトとして『とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ』が発売された。

 同社から発売されている『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』の続編にあたる本作は、主人公であるハム太郎を操作し、各地にいる“ハムちゃんず”を探していく「アドベンチャーゲーム」となっている。

 ジャンル自体は原作に非常にマッチしており、ドット絵で所狭しと動き回るハム太郎たちは非常に可愛らしく、数々のミニゲームや“ハム語”などの収集アイテムも多数用意されており、ゲームボーイ作品としてはかなりのボリュームを誇る一作だ。

 原作をうまく落とし込んだ良作といえるのだが、一点、話題を呼んだのが本作の難易度である。

 本作の大きな目的であるハムちゃんずを連れて帰るためには、さまざまなイベントをこなしていわゆるフラグを立てる必要があるのだが、そのための条件が非常に難しく、大人であってもノーヒントで完全クリアすることは困難なほど。

 また、作中、ミニゲームで高得点を取る必要もあるのだが、要求される得点は決して低くなく、完全クリアまでに高いハードルがいくつも立ちはだかることとなる。

 良い意味でいえばやり込み要素に満ち溢れた一作なのだが、対象作品が低年齢向けということを考えると、思わずその高難易度に“なぜ?”と首を傾げてしまう一作だ。

 

 漫画原作のゲームといえば、おのずとそのジャンルを想像してしまうものだが、原作ファンの予想を大きく裏切る、“まさか”な出来になったゲーム作品も多い。原作が有名だからこそ、それをどのような形で描き、活かすのか……まさに、ゲームの作り手たちの手腕が試される部分なのかもしれない。