■どれだけ下品でも母親を思う気持ちは変わらない『おぼっちゃまくん』思い出のおかあちゃまの巻

『おぼっちゃまくん』は小林よしのりさんによるギャグマンガである。1986年よりコロコロコミックに掲載され、「ともだちんこ」などの下品なギャグ言葉が一世を風靡した。今回紹介するのは、幻冬舎文庫版第1巻に収録されている「思い出のおかあちゃまの巻」である。

 主人公の「おぼっちゃまくん」こと御坊茶魔は、幼い頃に母親を病気で亡くした財閥の御曹司。ある日茶魔は巨大な便器で用を足していたところ、その水流に飲み込まれてしまう。

 いつの間にか過去の世界にやってきた茶魔は、そこで亡き母親と幼児期の自分の姿を目の当たりにする。しかし幼い自分は母親の言うことを聞かずわがままばかり。それを見た茶魔は“お母様が生きているうちに親孝行したい”という思いから、幼児期の自分を誘拐して食事やトイレのマナーを無理やり教える。しかしなかなかうまくいかず、幼少期の自分と喧嘩になってしまう……。

 そこへ駆けつけた母親は、「心配したのよ!」と言って幼児期の茶魔を抱きしめた。もちろん現代の自分には気づかない母に対し、茶魔は「小学五年の茶魔はりっぱにやっとりましゅから!」と涙ながらに叫ぶ。その後、「おかあちゃまがだいしゅきでしゅぶぁ~い!」と駆け寄る現代の茶魔が自分の息子に似ていると気付く母親。しかしそのときにはもう、茶魔はもとの世界に戻ってしまうのであった。

 超絶お金持ちのおぼっちゃまくんは何でも手に入れられるが、亡くなった母親を取り戻すことはできない。現在に戻った茶魔が、もう二度と会えないであろう母親の肖像画を前に「みんなもおかあちゃまを大切にしてクリ…」とつぶやく姿には、思わず涙が出る。

 

 ギャグ漫画は笑いの中にも感動を秘めており、普段のふざけた展開に隠れて涙を誘うシーンも多い。読者はその意外な感情の揺さぶりに触れることで、感銘を受けるのであろう。

 ギャグ漫画にはほかにも泣ける話が豊富にあるので、感動を求めるときこそあえてギャグ漫画を読んでみてはいかがだろう。

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