漫画の連載が長く続くと、同じような戦闘・展開が続いたりと、俗にいう「マンネリ」のような展開になってしまうことがある。そこで作者や担当編集は「テコ入れ」と呼ばれる作品の方向転換を行い、たとえば、日常モノの作品にバトル要素を入れたり、個性的な新キャラクターを登場させたりと工夫をしている。
漫画のなかには、この方向転換のおかげでこれまでにない成功をおさめた作品が数多く存在する。今回は、作品の方向転換の成功に貢献した「転換点」とも呼べるキャラクターたちを紹介したい。
■作中屈指の悪役として登場した『るろうに剣心』志々雄真実
まずは、2023年7月から約11年ぶりに原作リメイクとなる新作アニメがはじまった、和月伸宏氏による『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』から。
全身やけどの上にミイラのように包帯をグルグル巻き……と、インパクトのある見た目の志々雄真実は、まさに作品の成功に貢献したキャラだといっていいだろう。
彼は作品中盤に位置する「京都編」の最大の悪役であり、発汗機能がほぼ死滅しているがゆえに体が高熱を帯びているなど、個性の強さでいえば作中随一。そして主人公・緋村剣心との因縁ともいえる戦闘は、作中指折りの盛り上がりを見せた。
それまでの『るろうに剣心 』(東京編)は、登場人物たちとの出会いや、仲間が増えていく様子などを描いたものだった。しかし、志々雄の登場する京都編は作中でもとくに長いエピソードで、志々雄は剣心のことをもっとも苦しめた1人となる。間違いなく物語の方向性が変わった瞬間だ。志々雄のエピソードがあったからこそ、以降も剣心のルーツに迫る人誅編や北海道編と物語が続いていったと言えるだろう。
実際に、志々雄は和月氏がもっとも気に入っているキャラクターだったという。17巻の登場人物制作秘話にて、「自分の中の悪の美学の集大成なキャラだった」と語っており、“ラストバトルは剣心よりむしろ、志々雄を描く方を楽しんでいた”、と明かしている。
コミックでは7巻から18巻までと長きにわたって登場した志々雄。彼がいなければ『るろ剣』は、ここまで続かなかったかもしれない?
■『うる星やつら』を“延命”した藤波竜之介
続いては、昨年36年ぶりとなる新作アニメが放送され話題となった、高橋留美子氏原作の人気漫画『うる星やつら』から。同作には藤波竜之介という、父親に男性として育てられたボーイッシュな女性キャラが登場する。
それまでの『うる星やつら』はドタバタの日常漫画的な展開が続いていた。当時、マンネリを感じていたことに関して高橋氏は「あの頃は逆さに振っても何も出ない、何も思いつかなくなった時で」「藤波親子を出したら『これなら描ける!』となりました。実は女だったというのも、描いてるうちにですね。うる星やつら延命のキャラです」と、自身の公式ツイッターで裏話を明かしている。(2021年10月10日の投稿)
さらに、高橋氏は連載当時のインタビューで、竜之介を作中1番のお気に入りキャラだと語っていたこともあったそう。『うる星』の連載がここまで続き、36年たっても皆に忘れられないコンテンツのまま再アニメ化できたのは、もしかしたら竜之介のおかげかもしれない。
ちなみに、この「父親と喧嘩する」「男性の心を持った女性」というアイデアは、次作『らんま1/2』の主人公・早乙女乱馬と共通するところがあるため、ファンの間ではモデルとなったのでは?とも言われているようだ。