バトル漫画では“修行”の要素は不可欠。弱かったキャラクターが厳しい特訓の末に必殺技を身につけ、うんと格上の敵を倒す展開は手に汗握るものばかりだ。だが、どれだけ修行を積んだとしてもそれらは決して楽な戦いではない。相手に一矢報いるために準備を進め、やるかやられるかで“捨て身”の一発に全てをこめる。今回は、名作バトル漫画で「捨て身の一発」を放ったキャラを紹介していきたい。
■気配を消しチャンスを待つ…ゴンの狙った一瞬の隙
冨樫義博氏による『HUNTER×HUNTER』(集英社)は、主人公ゴンの成長にワクワクさせられる作品でもある。物語序盤、ハンター試験参加時のゴンといえば、まだまだ小物でいつ他の参加者に殺されてもおかしくない状況だった。そんなときにゴンの前に立ちはだかったのが、後の展開でも凶悪な存在として描かれるヒソカだった。
4次試験でゴンは、ヒソカの持つナンバープレートを奪わないとクリアできないという絶望的な状況に立たされる。そこでゴンは、真っ向から勝負を挑んでも勝てないと判断し、長距離から釣り竿でプレートを奪う計画を立てるのだった。
ゴンが立てた作戦は、ヒソカが他の参加者に襲い掛かる瞬間を狙って胸のプレートを奪うというもの。それを成功させるべく、釣り竿操作の精度を上げるために丸2日、飛ぶ鳥を捕獲する練習をして挑んだ当日。気配を消しじっとその機会を待ち続け、ヒソカが動いたのを見計らい作戦を決行すると、見事プレートを奪うことに成功する。
念の存在も知らず戦いのバリエーションも無かったゴンが、島で育んだ野生的カンを頼りにヒソカの裏をかいたことは快挙といえる。ゴンは、後のG.I編でもボマーに一撃を食らわすため準備を怠らなかったが、作戦のために過酷な反復練習を行い、それを実行に移すまでの高い集中力は、他キャラではあまり見られない特性だろう。
■一般人の少年・川尻早人が仕掛けた勇気の一撃
荒木飛呂彦氏による『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)第4部では、ラスボスである吉良吉影を倒すため一般市民の活躍が鍵を握っていた。それが、吉良が殺して成りかわって暮らしていた川尻浩作の長男・川尻早人だ。
早人も父親が殺人鬼に変わっていることに気づかなかったが、隠しカメラを仕掛けることでその本性を知る。そして夫の変化に気づかないばかりか、むしろたくましくなったと惚れ直している母親を守るために、早人は吉良と戦うことを決意するのだ。
吉良から見ればとるに足らない早人だが、彼は小学生とは思えない強い勇気を持っており、屋根裏で猫と草が一体化したスタンド「ストレイ・キャット」を発見し、これを攻撃に使用することを考えつく。そして吉良が早人に不用意に近づいた瞬間、隠し持っていた「ストレイ・キャット」を放ち、攻撃を仕掛けたのだ。
残念ながらこの一撃は、胸ポケットに入れていた時計のせいで致命傷とはならなかった。それでもほとんどのスタンド使いが吉良に返り討ちにあう中で、流れを変えたことには違いない。そのまま吉良を追い込むことに繋がったので、早人の勇気こそが杜王町を救ったとも言える。初登場時は陰気臭い性格の悪そうな子どもに見えた早人だが、その成長した姿に感動せざるを得ない。