新田たつお氏が手がけた『静かなるドン』という漫画をご存じだろうか? 1988年から2012年にわたって『週刊漫画サンデー』(実業之日本社)で連載されていた本作は、現在も多くの電子書籍や漫画配信アプリで目にする。掲載終了後10年を経過してもその人気は衰えず、2020年には電子版での売り上げがなんと6億円に到達したモンスター漫画だ。
「任侠」「ヤクザ」をテーマとした内容なのだが、幅広い層にバカ受けしている作品である。今回はそんな『静かなるドン』の面白さを、100回以上読んだ熱狂的ファンが解説する。
■シリアスとコミカルが表裏一体、今見ても秀逸な笑い
『静かなるドン』の魅力といえば、“笑い”と“緊張感”が両方楽しめる漫画であることだ。テーマは「ヤクザ」なのだが、暴力的なシーンばかりではなく、むしろ笑える場面が多い。
主人公の近藤静也は、関東随一のヤクザ「新鮮組」のドン。しかし昼間は女性下着メーカーのサラリーマンであり、小柄な体で下着を一生懸命作っている。このギャップがなんだかおかしい。
また、静也を狙う悪党にはそれぞれにギャグ要素があり、読みながらも笑ってしまう。たとえば、敵が毒を使って攻撃してくるシーンがあるのだが、その解毒剤には大きな副作用があり、筆者はこの秀逸な副作用に毎回声を出して笑ってしまう。
対して、コミカルなシーンばかりでなく、ヤクザとして毅然と敵に立ち向かっていく静也の姿はシリアスでカッコいい。ときには『ドラゴンボール』のように覚醒する瞬間があり、読者はお笑い系のドンと覚醒したドンの姿のギャップに引き込まれていく。笑いとクールさが程良いバランスで楽しめ、読んだあとはなんとも言えない爽快感を感じられるのである。
■一癖も二癖もある一度読んだら忘れられない愛すべきキャラクター
『静かなるドン』の魅力は、登場するキャラクターすべてにクセがあることだ。
主人公の宿敵も、怖そうに見えて実は親しみやすい点があったり、新鮮組の部下たちも隙あらばドンの席を狙うずる賢さがあったり。
静也を狙う悪党もそれぞれ個性が際立っており、ツッコミどころも満載だ。ピストルで攻撃されても絶対にあたらない男や、吸血鬼になって血を吸ってくる男など……真面目な任侠漫画には絶対登場しないようなキャラクターが多く、ただただ面白い。「そんなことあるか!」という状況も、この漫画なら許されてしまうのだ。
その一方、ごくまれに真面目なイケメンも登場し、読者の心をグッと掴む。とくに静也への反骨心が強い部下・龍宝は、『静かなるドン』のなかでは珍しいクールで腕の立つイケメンだ。彼の活躍シーンは別の漫画を読んでいるかのようなクールさがあるので、ぜひチェックしてみてほしい。
本作は全部で108巻、すべての登場人物はゆうに100人を超えるだろう。その登場人物すべてキャラが立っており重要な役割を持っているのも、この漫画の魅力である。