スマホどころかネットもなかった昭和後半から平成にかけて、子どもたちの大切な情報源のひとつに『ケイブンシャの大百科シリーズ』があった。同シリーズは、かつて存在した日本の出版社・勁文社(ケイブンシャ)が発行していた、子ども向け書籍シリーズである。
小さな文庫本サイズで大百科の名に恥じないほど分厚く、シリーズ最盛期にはおおよそ300ページ、なかには600ページを誇るものまであった。ジャンルもアニメ、特撮、スポーツ、アイドルやスター、電車、クイズ、オカルト、さらに自然・科学といった学習ものまで網羅している。
本文は子どもが困らないように全ての漢字にルビがふられ、表紙と一部カラーページを除いて本文はモノクロ印刷だったが、後にカラーページを増やした本も刊行。価格も発行時やページ数の違いはあるものの、おおよそ600円台でギッシリ詰まった情報が手に入るのもうれしかった。
子ども部屋に1冊はあったその本は、教室や公園などにも持ち運べるコンパクトさで、いつでもどこでも手軽に情報を楽しめた。そこで今回は、子どもたちの大きな好奇心と知識欲を満たしてくれた小さな専門書『大百科シリーズ』をふり返る。
■子どもたちが大好きなものばかりを集めた専門書
勁文社は1978年の『全怪獣怪人大百科』からスタートし、24年間で777冊もの『ケイブンシャの大百科シリーズ』を刊行してきた。高さ15センチの小ぶりな背表紙には通し番号が入れられており、シリーズ最後となった『デジモンテイマーズ大百科 完結編』は697番だが、刊行された777冊とで齟齬が生まれるのは「年鑑形式」があるため。
たとえば、最初の『全怪獣怪人大百科』は「昭和53年度版(※発行西暦とタイトルの和暦に齟齬)」で、その後「54年度版」や「55年度版」として新たな怪獣怪人を追加・改訂しながら、同タイトルで「年鑑」としての形式で発行をくり返していた。
本シリーズが刊行された1970年代後半といえば、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』を筆頭とした、まさに第2次アニメブームの真っ只中。そのため、当初こそ『ヒーローロボット大百科』など特撮とアニメでジャンルをひとまとめにしたタイトルのものが刊行されていたが、後に『ウルトラマン大百科』や『宇宙戦艦ヤマト大百科』のように、一つの作品(シリーズ)を冠したタイトルも増えていった。
なかでも『ガンダムシリーズ』の人気は強く、『機動戦士ガンダム大百科』をはじめ、映画三部作、作中メカ、プラモ、名決戦など、シリーズ全体の2割近い大百科が誕生している。
1991年から刊行した『CB(ちび)キャラ永井豪ワールド』シリーズは、45分ほどのOVA(オリジナルビデオアニメ)3作品それぞれの大百科を刊行。さらに1冊目では発売予定のビデオVol.2〜3の先取り情報を載せるなど、いわばアニメ雑誌の役割まで担っていた。
また、漫画家を詳しく解説した『まんが家入門大百科』では、『ゲームセンターあらし』作者・すがやみつるさんによるテクニック講座、永井豪さんのロングインタビューや仕事場紹介なども掲載。後に発売された同タイトルを石ノ森章太郎さんが監修したりと、今思えばトンデモなく豪華だったし、漫画家を夢見る人にとっては今なおバイブルと称される内容ばかりだ。