■宮城が湘北バスケ部に入った理由は?
中学時代、田岡監督のスカウトを断った宮城リョータ。理由は“安西先生がいる湘北に行きたいから“ということだったようだが、同じ理由でスカウトを断った三井寿とは違い、宮城と安西先生とのエピソードは全く描かれていない。それどころか、宮城は桜木に対して「オレは中学んときバスケ部だったが高校でも続けるかどうか迷ってたんだ 最初な」と切り出し、マネージャーの彩子に一目惚れしたのが入部を決意した理由だと語っている。
そうなると、田岡監督のスカウトを断った本当の理由は、“高校でもバスケを続ける保証はないから”ではないだろうか。そのうえで、もし続けるなら大学バスケ界の名将と名高い安西先生に師事したいという思いが実際にあったのか、あるいは単にその名を出せば田岡監督が大人しく引き下がると思ったのか。
もう少し別の角度から見てみよう。当時中学生だった三井の試合で来賓席に招かれていた安西先生と田岡監督の話のなかで、田岡監督が「(三井を)横取りしないで下さいよ」というと、「ウチは公立だから」と安西先生が答えている場面がある。この会話だけを見ると、湘北は公立高校、陵南はおそらく私立高校だ。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』では、宮城の家庭が決して裕福ではない様子がうかがえる。この点から、ひょっとしたらバスケ以前に私立という点で宮城のなかで陵南は選択肢になかったのかもしれない。しかも、赤木の元チームメイトが湘北について“とりたてて何のとりえもないフツーの高校生が集まるところ”と言っていることから、湘北は学力的にもあまりパッとしなさそうだ。そうだとしたら、勉強にあまり力を入れていないらしい宮城にはちょうどいい。
いずれにしても、この時期の宮城の胸のうちに根深い葛藤があったことは、映画の内容からも明らかだ。もしそれがスカウトを断る本当の理由だったとして、中学生男子が初対面のおっさん(田岡監督)相手に、それをベラベラ話すはずもない。
ましてや仮に経済的・学力的な理由もあるのだとしたら、なおさらそんな弱みは見せたくないだろう。そう考えると、“名将・安西のもとで学びたいから”というのは、本音を隠して強がるにはうってつけの言い訳だったのかも?とも思える。