■インターハイで登場した存在感のあるキャラたちのその後は?
気になるインターハイの結果は、海南が準優勝であること以外、現在に至るまで描かれていない。しかし2017年に行われた朝日新聞社の対談企画で、優勝校は作中には登場していない高校だということを、原作者の井上氏本人が明らかにしている。つまり、作中に登場した愛和学院・諸星大、名朋工業・森重寛、大栄学園・土屋敦の誰一人として、決勝まで行かずに敗退したということだ。
原作で公開されたトーナメント表を見ると、愛和は山王戦後の湘北に勝利した後、大番狂わせでもなければ準決勝に進出し、そこで海南に敗れたのだろう。牧が地区予選で諸星を偵察に行ったときの様子では二人は顔見知りのようだから、過去すでに対戦している可能性は高い。
憶測だが、“愛知の星”と呼ばれ、監督から打倒・沢北の期待をかけられる諸星は、これまで牧とは互角かそれ以上の戦いをしてきたのだろう。そして、おそらく今大会でもそうだった。それでも海南の選手層の厚さを考えると、結果的にはチームとしての総合力で海南が勝った形ではないだろうか。
チームの力といえば、大栄だ。偵察に行った彦一によると、“土屋を中心によくまとまったいいチーム”と表現されている。その土屋は、味方を活かすのが上手い仙道タイプの選手のようだ。地区予選の豊玉戦でも、土屋が巧みにパスを出して得点につなげ、熱くなりやすい豊玉の岸本を翻弄する様子が描かれた。
大栄も、順当にいけばベスト8まで勝ち上がり、そこで名朋と対戦した可能性がある。地区予選の愛和戦の様子から察するに、名朋のスーパールーキー森重はファウルが多く、ゴールにぶら下がる癖でテクニカルファウルをとられることもよくあるようだ。
森重は巨体とパワー、もしかしたら身体能力やセンスにも恵まれているのかもしれないが、一方で繊細な駆け引きや自己コントロールは未熟な様子がうかがえる。そこを土屋が上手く突き、5ファウルとらせて退場させたか、あるいはチームの連携で攻略したか……どんな形にしても、ここで森重は全国の洗礼を浴びたのではないかな、と想像すると、なんとなくスッキリできる展開ではないだろうか。
作中に落とされた手がかりを集めながら、描かれていないシーンについてあれこれと考えを巡らせるのは、読者にとっては至高の楽しみではないだろうか。連載開始から30年たってなお、こうして楽しませてくれる不朽の名作に、感謝と感動しかない。