1986年から『週刊少年ジャンプ』で連載開始された、荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)。本作では白熱するバトルシーンが多いのだが、とくに互いの裏を読みながら行われる心理戦はどのシリーズでも面白く、読者をハラハラさせる。
なかでも心理戦をもっとも得意とするのが、第2部の主人公、ジョセフ・ジョースターではないだろうか。敵の思考を読みながら心理戦で優位に立つときのセリフが、なんともカッコ良いものだった。今回は、そんなジョセフのシビれた先読みと反撃シーンを振り返ってみよう。
■「なんでメリケンのことわかったんだこの野郎!」推理力が光ったマフィアとの一戦
第2部の序盤、ジョセフがエリナと黒人の少年・スモーキーとともにレストランで食事を楽しもうとするところ、スモーキーに対して思いきり人種差別をしてくるマフィアのオッサンが登場した。
侮辱されたスモーキーは気まずさから先に帰ろうとするのだが、ジョセフは怒り心頭でケンカ腰。祖母であるエリナも「個人の主義や主張は勝手! ゆるせないのは私どもの友人を公然と侮辱したこと!」と毅然とした態度で臨み、さらに「ほかのお客に迷惑をかけずに きちっとやっつけなさい!」と、ジョセフをあと押しする。
このセリフもカッコ良すぎるではないか。さすがは、かつてあの宿敵・ディオに無理に口づけされた際、泥水で口を洗って抵抗した芯の強い女性だ。
ここからのジョセフは見ものだった。このオッサンが上着のポケットから何かを取り出そうとするのに対して「バァーン」と挑発的なポーズを取りつつ、探しているメリケンサックが上着ではなく、ズボンのポケットに入っていることを指摘するのだ。
そしてすかさず「おまえの次のセリフは 『なんで メリケンのことわかったんだ この野郎!』という!」と言い放つ。実際、このオッサンは汚らしい顔を前面に押し出し、同じことを復唱してしまう。
ジョセフは男性の指のすりむけ具合やシャツの返り血から、彼が上着を脱いでメリケンサックで喧嘩をし、それをズボンのポケットに入れたであろうことを推理していた。
そして「わかったから どうだってんだよ このクソガキが」という、その後のセリフまで先読み。最終的にこのオッサンは、ジョセフに手玉に取られて帽子掛けを殴ってしまい自滅した。推理力も素晴らしいが、相手のセリフを先読みしていくのがまた痛快だったな。
というか、メリケンサックをズボンのポケットに入れていたら椅子に座ったとき痛いだろうに……。パスタの汚い食べっぷりも含め、最初から最後まで本当に情けないオッサンだった。
■「赤子を殺すより楽な作業よ」騙し打ちにストレイツォもさすがに冷や汗
レストランでの出来事のあとは、ストレイツォとの戦いに入る。まだろくに修行もしていないジョセフに対して、波紋の達人であり吸血鬼化したストレイツォは序盤の強敵だ。彼が襲ってくることを事前に知っていたジョセフは、懐に用意していたマシンガンをぶっ放すもまったく通用しない。
ジョセフの弾切れを確認したのち、ストレイツォは高圧で体液を目から発射する“空裂眼刺驚”というビームを放ち、ジョセフの眉間に命中させた。勝利を悟った彼は「残るはエリナ・ジョースターただひとり…あの老婆は赤子を殺すより……」と語り出すのだが、ここでジョセフの「おまえの次のセリフは『赤子を殺すより楽な作業よ』……だ!!」が被ってくる。
さらにジョセフは「さらにオメーは『こいつなぜ穴あけられて生きていられるんだ?』…という」と、続ける。さすがのストレイツォも口走った後に冷や汗をかいていた。
ジョセフから「アホレイツォ」呼ばわりされていたストレイツォだが、実は彼は鏡に映ったジョセフに攻撃していたのだ。たしかに声の方向などで気づきそうなものだが、吸血鬼化して間もなかったので思考回路が正常ではなかったのかもしれない。いやそれでも気づけよ、アホレイツォ……。
ジョセフもマシンガンの持ち手を左右逆にするほど慎重に応戦していたので、仕方なかったといってしまおう。