■『機動戦士ガンダム00』沙慈&ルイス
最後に、『機動戦士ガンダム00』の沙慈・クロスロードとルイス・ハレヴィについて紹介したい。この2人は当初、主人公たちが属する私設武装組織・ソレスタルビーイング(Celestial Bing、以下CB)とはまるで無関係の民間人だった。
2人の平穏だった日常は、ルイスが親戚の結婚式で帰郷した際、ガンダムスローネドライの攻撃を受けてすべてを失ったことで変わり果てる。彼女は大切な家族を皆殺しにされたうえ、自身も左手を失う重傷を負ってしまったのだ。
このときの攻撃はいちパイロットのネーナ・トリニティが起こした気まぐれであり、CB全体の理念に反するものだったのだが、ルイスがそんなことを知るはずもない。彼女はCBを恨んで復讐の道を歩みはじめ、沙慈とも別れてCBと敵対するアロウズのパイロットとなる。
一方の沙慈は紆余曲折のすえ、CBの人間になった。ゆえに2人は敵対関係になってしまったわけだが、量子空間で再び向き合えたことで、互いの変わらぬ思いを知る。
しかしルイスは薬物投与や暗示の影響で、アロウズを支配するリボンズ・アルマークの操り人形と化しつつあった。やがて自身の仇であるネーナを殺害し戦う目的を見失ってからは、完全に彼の手に堕ちてしまう。
ついに沙慈を手にかけようとまでしたルイスだが、彼が首にかけていた指輪を見て正気を取り戻す。それはかつて沙慈が買ってくれた、お揃いのペアリングだった。
最終的にルイスは無事生き残り、後遺症に苦しみながらも少しずつ立ち直っていく。とはいえ、“強化人間は悲惨な運命を辿る”というガンダムシリーズの慣例から、死んでしまわないかヒヤヒヤさせられた視聴者も少なくなかっただろう。
物語をドラマティックに描くのに、キャラクターの心理描写は欠かせない。とくに誰かが誰かをまっすぐに想う気持ちは、観る者に強烈な印象を残す。また本来であれば敵対関係にある2人がそうした絆で結ばれていると、よりいっそう心を揺さぶられてしまうものだ。
ガンダムと恋愛は切っても切り離せない要素であり、こうしたドラマ性こそが長年愛されるシリーズたる理由の1つなのではないだろうか。