■修行中のキキにとって試練となった!? 『魔女の宅急便』
魔女見習いのキキが見知らぬ街・コリコで1人奮闘する『魔女の宅急便』(1989年公開)。主人公・キキは一人前の魔女になるため、コリコで出会った「グーチョキパン店」に居候しながら、ホウキを使って空を飛べる能力を活用した“宅急便”をすることになった。
パン屋を訪れるお客さんの依頼や電話などで順調に仕事を獲得していくキキ。ある日彼女は、遠くへ住む孫娘に温かい料理を届けたいという老婦人から依頼を受ける。
オーブンの故障などで手間取ってしまったものの、なんとか孫娘のホームパーティーに間に合うようにどしゃぶりの雨のなか料理を運ぶキキ。温かい料理が濡れないように自分の服をかぶせ、雨にうたれながら空を飛ぶ姿に、思わず胸が締め付けられてしまった人も多いだろう。
なんとか料理を届けたものの、老婦人からの贈りものを受け取った孫娘は「あたし、このパイきらいなのよね」と、ピシャリ。懸命に料理を運んだキキの気持ちや、孫娘が喜ぶ顔が見たくて贈り物をした老婦人のことを考えると、なんともいたたまれない気持ちになってしまうこのシーンは、作中でもとくに印象深いと思う。
そしてこの出来事がきっかけでキキは体調を崩し、挙句の果てに魔法が使えなくなってしまうというスランプに陥る。結果的には、このスランプによってキキは魔女として大きく成長することになるのだが……、ターニングポイントだと分かっていてもハラハラしてしまう重要な出来事だった。
■美しい描写に息をのむ…『風立ちぬ』
“零戦”こと「零式艦上戦闘機」の設計に携わった航空技術者・堀越二郎さんの半生を描いた『風立ちぬ』(2013年公開)では、美しい名シーンに“雨”が用いられていた。
主人公の堀越二郎は、関東大震災の日に里見菜穂子という少女と出会う。二郎の親切な様子に心奪われる菜穂子だが、被災時ともあって一瞬の出来事になってしまい、再会もなかなか叶わなかった。
そんな2人が再び出会ったのは、二郎が休暇で訪れた軽井沢だった。すっかり大人の女性へ成長した菜穂子の明るく無邪気な様子に、すぐに打ち解けていく2人。
そのとき突然、二郎と菜穂子を豪雨が襲い、2人は1本の傘で雨を凌ぐことに……。肩を寄せ合いながら歩く二郎と菜穂子だが、やがて雨はぴたりと止み、空には美しい虹が顔を出すのだ。
虹に気づいた菜穂子に促されその光景を目にした二郎は、思わず「虹なんかすっかりわすれていました」とつぶやく。すると菜穂子は「生きているってすてきですね」と返す。
実は二郎はこのとき、航空機の設計の仕事がうまくいかず、息抜きのために軽井沢を訪れていた。気持ちが沈んでいた彼にとって菜穂子と見た美しい虹は、沈んでいた心を再び明るく照らしてくれるものだったのだろう。
この軽井沢での再会をきっかけに、2人はやがて婚約し、夫婦となっていくことからも、この“雨”のシーンの流れは作品において欠かせない重要なシーンだったように思う。沈んでいた心が晴れ渡っていくような虹は、とても印象的だった。
出会いのきっかけになったり、成長のターニングポイントになったりと、ストーリーにおいて重要な役割を果たしていた“雨”のシーンたち。“雨”というとマイナスなイメージが強いが、ジブリ作品で描かれる“雨”には、心掴まれる印象的な名シーンが多くあった。
何気なく見てしまう“雨”のシーンではあるが、監督の意図を考察しながらこれらのシーンをじっくりと堪能するのも、新しい作品の楽しみ方かもしれない。