アメコミ界の超重要ヒーロー!映画『ザ・フラッシュ』を観る前に「知っておいて損はない」5つのトリビアの画像
『ザ・フラッシュ』(C)2023 WBEI TM & (C)DC

 6月16日より、全世界同時に映画『ザ・フラッシュ』が公開されます。DCコミックスを原作とする今回の映画ですが、試写を観たというスティーブン・キングも絶賛するなど、前評判も上々で、楽しみにしている向きも多いはず。ここでは、この映画を楽しむためのアメコミのウンチクを5つ紹介していきましょう。

■「フラッシュ」を名乗るスーパーヒーローは他にもいた

 フラッシュというヒーローは、アメコミ界で「彼の登場でコミックスの歴史は変わった」とまで言われているほど重要な存在です。ところが実は、このキャラクターはあるスーパーヒーローのリメイクだったんです。

 最初に「フラッシュ」を名乗ったスーパーヒーローが登場したのは、1940年の『フラッシュ・コミックス』1号。当時のアメリカの出版界はコミックスのバブル期で、漫画本が馬鹿みたいに売れた時期でした。あまりに景気がよかったので、後にこの時代のことを「ゴールデン・エイジ(黄金時代)」と呼ぶようになります。

 そんな時期に誕生したフラッシュの正体は、大学生のジェイ・ギャリック。科学実験の最中に起きた事故により、弾丸よりも早く走ることのできる超能力を身につけた彼は、俊足で知られるギリシャ神話のエルメスのような羽のついたヘルメットを被って、正義のために戦いました。後に他のヒーローたちと手を組んで、「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)」というチームを結成したりと大活躍しましたが、戦争が終わる頃にコミックスのブームが終わり、掲載誌も廃刊になってしまいました。

 そして、当時の子どもたちが大人になり、漫画本を読まないような年齢に達した1956年。『ショーケース』誌4号にて、新たに「ザ・フラッシュ」という名前のスーパーヒーローがデビューします。それが今回の映画の主人公の、バリー・アレンのフラッシュです。

 初代フラッシュと同様、2代目のバリーも科学実験の際に高速で走る超能力を得ます。コミックスが好きだった彼は、少年時代に愛読していたヒーローにあやかって、自分も「ザ・フラッシュ」と名乗ることにしたのでした。

 そしてこの2代目の登場により、コミック界は新しい時代の「シルバーエイジ(白銀時代)」に突入したと言われています。

■流行りの「マルチバース」をコミック界に持ち込んだのは「ザ・フラッシュ」!

 マーベル映画の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)や『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022年)ですっかりお馴染みの、「マルチバース」。昔は「パラレル・ワールド」という言い方をしていましたが、「我々が住む世界と並行して、別の世界がいくつも存在する」というこの概念を子どもが読むコミックスの世界に持ち込んだのが、ザ・フラッシュでした。

 前述のように、当時のフラッシュは、リメイクの2代目が主人公として活躍していました。ところが1961年の『フラッシュ』誌123号で、ゴールデン・エイジの初代フラッシュが登場するエピソードが描かれたのです。

 実は彼らはこれまで並行する別の宇宙にそれぞれ住んでいたのが、2代目の能力が発動した結果、次元を超えて異世界間を行き来できるようになった、というのです。

 異世界の存在は誰にも知られていませんでしたが、偶然、寝ているときにその存在を探知した漫画家が、夢の記憶をもとに1940年に『ザ・フラッシュ』という漫画を描き、それを読んだバリー少年が長じて2代目のフラッシュになったのだ、と説明されました。 

 これ以降、2代目が住む世界は「アース1」、初代が住んでいるのが「アース2」と名付けられ(なぜか順番が逆ですが、書き間違いではありません)、2世界の交流はどんどん進んでいきました。アース1のヒーローたちで結成された「ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカ」の物語中に、アース2の「ジャスティス・ソサエティ」のヒーローたちが参加するクロスオーバーは毎年の定番行事になったくらいです。

 また、このマルチバースという概念は物語を書くうえでとても重宝したようで、その後は数十、数百の並行世界が、わりと安直に創造されることになりました。

■DCコミックスにSF色が濃い理由

 マルチバースという概念は、そもそも量子力学の研究から出てきたもので、当時の最先端科学でした。こういう科学知識が子ども向けの漫画にシレッと潜り込むようになった背景には、当時の出版事情があったようです。

 米国では、1930年代にパルプ本が大流行しました。大衆向けの探偵小説やSF小説が大量に刊行され、その需要に応じてたくさんの作家がデビューしました。

 このブームは1940年代にはだいぶ落ち着きましたが、作家の一部はコミック界に流れていくようになったのです。

 類は友を呼ぶ、ではありませんが、当時のDCコミックスにはそういうSF界のネットワークがあったようで、パルプ本出身の作家に原作を書かせています。たとえばNHKでアニメ化されたスペースオペラ小説『キャプテン・フューチャー』シリーズのエドモント・ハミルトンも、スーパーマンやバットマンの原作を手掛けています。

 そして、初代フラッシュを創作し、コミック界にマルチバースを導入したガードナー・フォックスという編集者兼原作者も、かつてはSF小説家でした。

 その影響か、シルバーエイジの『フラッシュ』の巻末には、「フラッシュ・ファクト」という1ページの読み物コーナーが掲載されていました。これは「光は1秒に地球を7周半する」というような科学的なウンチクを紹介するページだったのですが、これによって科学に興味を持った子どもも少なくはないことでしょう。

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