漫画やアニメに感情移入するポイントとして、キャラクター同士の人間関係がある。信頼し合う関係性をしっかりと描写することによって、絵空事ではなくあたかも“生きている人間”であるかのように感じられて物語に没入できるのだ。その中でも、深い信頼関係で結ばれた主従関係というものは、より強い絆が感じ取れる関係性と言っていいだろう。
そして、そうした主従関係の中では、忠誠心は時に常軌を逸するほどの自己犠牲や献身といった形で現れる。日常生活とはかけ離れた極限の状況下で発揮されるそれには、感情移入するというよりただ圧倒されてしまい、より強くストーリーとキャラクターを印象付けることになる。
そこで今回は、それはやりすぎでは? と思えるほどの強い忠誠心を持つキャラクターたちを紹介していきたい。
■『HUNTER×HUNTER』ネフェルピトー
冨樫義博氏による『HUNTER×HUNTER』(集英社)のキメラ=アント編では、世界を巻き込む激戦が描かれる。メルエム率いるキメラ=アントの軍勢と人間との戦いで、どちらの種族が生き残るに相応しいのか? という戦争だ。王として絶対的な存在であるメルエムに対して配下のキメラ=アントは従わざるを得ない状況だが、それぞれの思惑がある。心酔する者もいれば、裏切ろうとする者もいるのだ。
そんな中で、メルエム直属の護衛軍の1人、ネフェルピトーはメルエムに絶大な忠誠心を持つ。その実力はハンター協会会長のネテロに「あいつ ワシより強くねー?」と言わせるほどで、一流のハンターであるカイトですら寄せ付けない。それほどの力を持つピトーだが、それをメルエムのために命を賭けて振るうことにしていた。それが分かるのが、ゴンとの戦いだ。
ゴンがメルエムの最大の敵になることを予期すると、負けるかもしれないと分かっていながらもピトーは戦いを挑む。ゴンがピトーと対峙する姿からは禍々しいオーラが飛び出し、見ている側からしてもピトーは絶対に勝てないだろう……と思ってしまう。そんなゴンに何度も立ち向かいボロボロになるピトーからは、「全てはメルエムのため」という気持ちが伝わってきた。
非情な敵だったにもかかわらず、なぜかかわいそうとすら思えてしまうのは、その忠誠心につい感情移入してしまっていたからだろう。「殺されるのがボクで良かった…!!」と迎えたピトーの最期には、見事忠義を果たしたことに感動してしまった。
■『BLEACH』涅ネム
久保帯人氏による『BLEACH』(集英社)には、精神的に病んでいるような、ある意味では“壊れた”キャラクターが多い。その代表格が、護廷十三隊の十二番隊隊長・涅(くろつち)マユリだ。作中でも屈指のサイコキャラで、自らの欲望のためにほかの誰かが犠牲になるのは当たり前、人体実験や非人道的なことをしても自分なら許されるといった考えの持ち主だ。そんなマユリが、苦労して造り上げた部下が副隊長であるネムだ。
ネムは創造主であり上司であるマユリのことを絶対と思っていて、マユリに命じられると迷うことなく何でもしてしまう。無表情な上に、淡々とマユリの非人道的な行為の手助けをする姿はかなり怖い。しかし、ただの操り人形というわけではなく、彼女なりの信念もある。それがマユリのために生きること。これはマユリが命じたことではなく、彼女自身が決めたことなのだ。
それが分かるのが星十字騎士団の滅却師ペルニダとの戦いである。マユリが窮地に立たされると、それまでは傍観していたネムが自らの意志で参戦。リミッターを解除してペルニダを圧倒すると、マユリ救出に成功したのだ。しかし、その代償としてネムは肉片へと姿を変えられペルニダに捕食されることになってしまう。しかしそこまでしてもマユリを守ろうとしたネムには、どこかキュンとしてしまったものだ。